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デスノート 原作:大場つぐみ/漫画:小畑健

マンガ「デスノート」を数年振りに読んだ。何回か本棚から引っ張り出しては読み返しているが、通読したのはおそらくこれで3回目だ。解説本の13巻まで読んでみて、やっぱりデスノートは面白い。展開が常に早く、回想が入ったりして現実の進行が止まるといったことがほぼないのは原作の大場氏の性格に起因するらしい。

解説本に書いてあったが、

・ヨツバ編は8人の重役のうち、誰をキラにするか決めておらず小畑氏のキャラデザインを見て決めていった(そもそも、再びノートを手にしたライトがLを殺すまでの”繋ぎ”だったので、誰がキラかはそれほど重要ではなかった)

・ニアとメロは当初、小畑氏は2人を逆のデザインで描いたが名前を間違ったまま提出し大場氏と編集担当に気に入られたので、本当は逆だったことを言い出せずに決定した

・原作者の意図として、デスノートによるライトの所業に対して善悪論を表現するものではなく、事実を展開して事件主導でストーリーを動かしたかった

というような裏側があったようだ。

 

特に最後の善悪論のところは、最終巻、大黒埠頭YB倉庫でのニアの台詞に大場氏のメッセージが如実に表れていると思った。思想を述べるものではなく、ジャンプで連載されたエンタメ作品であり、そこから何を考え、感じ取るかは読者次第だということだ。

各巻の感想を以下に記していく。

 

1.

DEATH NOTE モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 

発行:2004年4月7日

退屈/L/家族/電流/眼球/操作/標的
デスノートを拾うところから、スペースランド道中のバスジャックでFBI捜査官レイ・ペンバーの名前を確認するところまで。まだ1巻時点ではLの顔出しはない。
改めて読み返すと、デスノートを拾って新宿の通り魔であった音原田九郎を殺した時点で、既にその後のライトの思想は完成されていたことがわかる。進学塾で弱い者いじめをする素藤を殺そうかと逡巡する場面が顕著にそれを物語る。
裁きを受けて当然の悪人をデスノートの力で殺害し、悪のない世界を目指すというのも一方の「正義」であり、一方で悪は法の力によって裁かれるべきで個人がそれを選択的、且つ強制的に実行することは無差別殺人でしかなく規模において最大級の罪悪なので必ず捕まえるというのも「正義」である。
真理がどうという話ではなく、両者が心底から自分こそが「正義」だと信じていることがこのマンガの根底のテーマだと思う。過去のどんな戦争も首謀者は自国こそが正義を行使していると盲信していた。
話は変わるが、20年近く前のマンガだが、絵的にまったく古く感じさせない小畑健氏はやはり偉大だ。それとカバーのそでの大場つぐみ氏の挨拶も大人になったいま読むと皮肉が効いていてなかなか面白い。何が「そんな爽やかな季節ですね」だ。
 
2.
DEATH NOTE モノクロ版 2 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2004年7月7日
女/穴/合流/一/神/秒読/誘惑/電話/逆立
日本に極秘捜査で入ったFBIの殺害、6人になった警視庁の捜査本部とLの合流、南空ナオミの本名聞き出し、夜神家と北村家への盗聴器と監視カメラの仕掛けと内容が盛りだくさん。レイ・ペンバーは山手線に乗るために駅ホームに来た時点で既にデスノートに名前が書かれ操られていた。だから、ライトの声をずっと思い出せなかったのか。
南空ナオミの名前を聞き出すところは、作中でライトも焦っていたように読んでいる読者もハラハラさせられた。一度偽名を使った相手からまたすぐに本当の名前を聞き出す方法なんてある訳ないと思ったが、ライトは難局をくぐり抜けた。これから先、時間的な制限でとても無理だと投げ出してしまいそうになった時、この話を思い出すことにする。

 

 3. 

DEATH NOTE モノクロ版 3 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2004年9月8日
芥/視線/屈辱/先手/裏腹/不幸/裏腹/盾/馬鹿
マンガ(エンタメ)としての面白さがさらに加速する。夜神家と北村家が疑われ、ライトの部屋だけで64個の隠しカメラが仕掛けられた。その監視をかいくぐって、事前にポテチの中に仕込んでおいたポータブル液晶で新たな殺害をしていく有名なシーンがあるが、相当無理がある。ポテチを取るタイミングで文字を少しずつ書くというのはまだあり得たとしても、映像を見るのはさすがに無茶だ。
東応大の入学挨拶から、Lとのテニスの勝負、夜神総一郎の過労による入院、そして出目川ディレクターによるさくらTVによるキラメッセージの放映と次々と事態は進行していく。護送車で突っ込んだ夜神総一郎がビデオテープを押収し、TV局から出てくる場面はこみ上げるものがある。捜査本部がLと合流する直前に、「Lと組むなら私は降りる」といって抜けた伊出がここで活躍するとは。マンガの演出的には感動的だが、状況的にはお前も顔を隠せ、と突っ込まざるを得ない。それにまったく動いていなかった北村次長がたったの5分で機動隊をあれだけ集結させられたのも異様だ。この巻の最後にはレムとミサも登場して、いよいよ役者が揃ってきた感じだ。

 

 4.

DEATH NOTE カラー版 4 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2004年11月9日
転倒/恋心/判定/武器/爆弾/簡単/賭/移動/投身
表紙絵が弥ミサとレムになっている通り4巻はミサを主軸にして物語が展開していく。「22日 友人と青山で待合せ。ノートを見せ合う」の日記による誘いでミサがライトを見つけるところから急接近。急にお近付きになったことをカムフラージュするために清楚・高田や他の女性ともデートをし始めるライト。有名なシーン「お…女を本気で殴りたいと思ったのは生まれて初めてだ…」も出てくる。
大学でライト、ミサ、Lが一同に会して、直後にライトが携帯でミサに電話をするとLが盗んでいる場面は手に汗握る。そしてその後ミサが第二のキラ容疑で確保、監禁。2冊のノート所有権を持ったライトがレムの方を放棄し、レムが飛び立っていくシーンが死神界に帰っていく訳でもないところに今後の展開というか伏線を予感させる。ライトが自ら希望し、自身も監禁されるところまで。

 

5.

DEATH NOTE モノクロ版 5 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2005年2月9日
白紙/親子/八人/打撃/離別/仲間/松田/天国/黒
総一郎まで監禁されてライト、ミサ、総一郎の3人が監獄に入っている姿がシュール過ぎる。高架下での総一郎の迫真の演技によって監禁は終了し、ライトとLは手錠でつながれた生活に移行。トイレ、風呂、寝る時間まで一緒なので仲が良いどころではない。ヨツバが出てくる巻だけど、個人的には総一郎が輝いていた。監獄からカメラ越しに放った「こんな状況で気の休まる所などない。今の私にはここが一番落ち着く」に始まり、「今から警察庁に辞表を出しに行くんだ」そして「再就職だな」。再就職のフレーズを言う時の総一郎の表情は何度読み返してもすがすがしい。その他盛り上がりはあまりなかったが、アイバーとウエディも登場する。ヨツバ会議室を盗聴していたライトが奈南川にLを名乗って電話するシーンは相当ドキドキした。

 

6.

DEATH NOTE モノクロ版 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 

発行:2005年4月9日

後継/無茶/不向/先走/交換/植木/四葉/誤認/寸止

火口を追い詰める巻。さくらTVのキラ特番に出演した松田の大活躍。出目川も久々に登場して「準備は完璧にできている」等とムダにカッコいい。最後は火口の運転するポルシェが首都高で、スモークを貼ったパトカーとL側の部隊に挟まれ、さらに上空からのヘリからワタミに狙撃されるというなんともドラマチックな演出となっている。自分の頭に拳銃を突きつけて、自身を盾にするとはなんとも情けない。「馬鹿ですね」とLは一蹴したが、ここまで露骨な完全再現ではなくとも、似たようなシーンはあるかもしれないとふと思った。自戒の念を込めて覚えておく。あと、ヨツバの面接中にレムがミサに話すシーンはさすがに「出過ぎ」感があった。

 

7.

DEATH NOTE モノクロ版 7 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 

発行:2005年7月9日

悲鳴/中/創造/抱擁/二択/胸中/零/誘拐/二番
火口の死によって捜査本部にノートとレムが加わり、デスノート裏表紙に書かれた13日という嘘のルールによって容疑が晴れたミサが解放された。外に出たミサは山中からデスノートを掘り出し、リュークと目の取引をする。レムが死神であるのにミサという一個人の人間に肩入れしている事実が、ある時点まではライトにとっては不利だったが、それを逆手に取ってレムが自死を覚悟でLを殺さなければならない状況を作り上げた。発想力を未来を先読むする能力が尋常ではなく、手法が鮮やか。7巻のメインイベントはLの死であり、表紙も考えるポーズのLの姿だ。ワタリの正体も明らかになり、Lの次世代となるニアとメロも登場する。メロに至っては登場していきなりマフィアを指揮して、警察庁長官の誘拐から始まり、さらに過熱していく今後の展開が予想される。
最後に、大学生で少し大人っぽくなった粧裕を見せておいて、その後巻の終わりで誘拐されるなんて、原作者と編集者を呪わずにおれない・・・。

 

8.

DEATH NOTE モノクロ版 8 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2005年7月9日
決断/的/直角/責任/死亡/釦/発見/飛翔/身震
2代目L(キラ)、ニア、メロの三つ巴の抗争が始まる。総一郎が誘拐された粧裕を助けるためにLAに向かう飛行機から砂漠に降り立って、地下で取引。ガスマスクを付けた犯人から「ここまで用意した俺達を信用できないのか?!」と恫喝されるシーンはなかなか味わい深い。砂漠から再度離陸するための滑走路はどこにあったのだろうという疑問は抱いてはいけない。機長を買収しているのも謎が多すぎる。
メロのマフィアご一行がノートを得たことでストーリーは加速していく。アラブの大統領直轄部隊がミッションを始めた時にシドウに邪魔されたのはとてももどかしい。何年か前に読んだ時はニア派だったけど、いま読み返すとより行動派のメロに惹かれる。あと、この漫画を読むと板チョコを食べたくなるのは私だけだろうか?美味しさに惹かれるというより、知的な嗜好品としての扱い。

 

9.

DEATH NOTE カラー版 9 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2005年12月7日
接触/確認/背水/熱演/認知/挨拶/利用/予測/白々
日本の捜査本部にキラからリュークが付くデスノートが送られてきて、メロからのノート奪還作戦。総一郎が目の取引をしてマフィアが一斉に死ぬ時刻に突入。結局メロには逃げられたがノートは取り戻すことに成功。ニアとライトのネットワーク上でのボイスチャットはかなり見所があって丹念に読み込んでしまう。ハル・リドナーのシャワーというサービスシーンが今巻の最大の特徴。メロは自爆によって顔面に傷を負ってしまって、当時ファンはどんな心境だったのだろう。キラの代弁者となった出目川がニューヨークのSPK本部を取り囲むところまで。

 

10. 

DEATH NOTE モノクロ版 10 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2006年2月8日
掃除/通告/自分/削除/偶然/当選/日本/明日/会話 
相沢・模擬がSPKで証言したことでニアが現L=夜神ライトに辿り着く。捜査本部は日本に帰り、デスノートの所有権をミサに放棄させて、魅上に能力を与える。独断で暴走した出目川を裁き、代弁者の後任として高田清美を抜擢した。ここであの大学の同窓が出てくるのかと感慨深い。ペリネホテルで密会中に魅上からタイミングよく電話があったことで、初めて直接の交信をすることに成功。ライトが直接、「自分がキラ」と人にいうのは南空ナオミ以来だ。しかしあの時はデスノートに既に書き込んだ後に言ったので、実質的にはこれが初めてかもしれない。呼び方がいきなり高田さんから清美に変わったのも面白い。「魅上…悟れているのか…」というのが個人的名言。ミサは所有権を放棄したので、これ以降の活躍はもうないことが予想されて残念だ。あと、読み終えてから気付いたけど、リュークが完全に空気だった。

 

11.

DEATH NOTE モノクロ版 11 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2006年5月7日
同心/予告/停止/夜/決定/外/納得/一方/色々/全員
SPK一行も日本入りし、いよいよ決着の時に近付いていく。ジェバンニは魅上の尾行、リドナーは高田の護衛、レスター指揮官は口唇術で魅上の映像から発言を読み取る等とSPKメンバー個々の活躍があるが、やはりジェバンニが際立っている。スポーツクラブのロッカーからノートに初めて触れるシーンは妙な懐かしさがある。マンガ読者はデスノートがどういうものか分かっているが、ジェバンニにとっては殺人ノートとはどのようなものか、死神はどういった存在でどう見えるかの事前知識を持たない者がノートに触れる時のリアルな反応に思える。
ホテルのメモ用紙に細工したことで疑念を抱いた相沢がニアに電話して、「あなたたちはもう蚊帳の外だから余計なことをするな」と言われるシーンはなんとも切ない。キラを追うなら警察に辞表を出しに行くと総一郎が言った時、家族のことを考え断念した相沢がそれを言われるというのが皮肉だ。高田がメロに誘拐されるところで次巻。

 

12. 

DEATH NOTE モノクロ版 12 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 
発行:2006年7月9日
二人/対面/誘導/我慢/宣言/答/無理/殺意/幕/完
最終巻。総じて良い幕引きだったと思う。1月28日13時大黒埠頭YB倉庫で捜査本部とSPKが対峙。そこに遅れて魅上がやってきて扉の隙間から死神の目を使って、夜神月以外の名前を書く。序盤のマット、メロ、高田の死はあまりにも駆け足で驚いたが、その後のYB倉庫でのシーンがこのマンガのテーマについての是非にも触れるような内容で読み応えがあった。確たる証拠によって負けを認めざるを得なくなった月が発狂するシーンも見事だった。上半身が人間、下半身が獣のようになった1コマは半身半獣のケンタウロスを彷彿とさせる。証拠を突きつけた後、ニアがライトに放ったセリフはこのマンガを総括させる代表的な言葉の一つだと思う。
「何が正しいか正しくないか 何が正義か悪かなんて 誰にもわかりません もし神がいて 神の教示があったとしても私は一考し それが正しいか正しくないかは自分で決めます 私もあなたと同じです 自分が正しいと思う事を信じ正義とする」
最期はリュークがライトの名前を書くことでマンガ初期の伏線を回収した。そうだ、リュークは死神だったんだ、とそれまでの緩いやり取りで存在に対する意識が希薄化していた読者のある意味襟をラストで正してくれたともいえる。