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読書メモ:「トヨタ生産方式の原点」 大野耐一

 

トヨタ生産方式の原点

トヨタ生産方式の原点

  • 作者:大野 耐一
  • 発売日: 2014/02/23
  • メディア: 単行本
 

まさに本のタイトル通りトヨタ生産方式の原点について述べられた本。自働化、ジャストインタイムなどの細かなメソッドや実践例ではなく、それが生まれた背景やどのように浸透させていったかに重きが置かれている。著者は、トヨタ生産方式は豊田英二会長や斎藤尚一相談役、そしてそれらを実際に実践して作り上げた現場の方々の奮闘の賜物だと謙遜しているが、その時点ではまだ世界の誰もがやってない未知の方法を提案し、主体となって推進した点でやはり大野氏が生みの親であると思う。
戦後、昭和20〜30年代のトヨタや自動車業界、外国との生産性の違いなどの記述もあり興味深い。非常に勉強になる本であるが、一点残念なのは著者の口語的に書かれている関係で、「〜〜せにゃいかん」というような言い回しが多く多少読みにくい部分はマイナスであった。体裁の話で内容的には素晴らしい。
「売れる物を、売れるだけ、売れるときに」且つ「できるだけ安く」つくる方法がトヨタ生産方式であり、このできるだけ安くの順番が大切であるなどは今回初めて知った。一般的にいわれる錯覚についても示唆が多く、量産で安くなる錯覚というのは特に参考になった。

 

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以下、読書での私的のメモ。

 

トヨタ生産方式の基本
一番基本的なものの考え方というのは、売れる物を、売れるだけ、売れるときに、できるだけ安くつくる方法というものを開発していくことである。
段取り替えのシングル化や「かんばん」だけが、トヨタ生産方式ではない。
 
 
価値(Value)と価格(Price)を混同してはならない。製品がその価格で売れるのは、顧客にとって価値があるからである。製造原価が上がれば価格を上げても仕方がないと安易に考えてはいけない。価格が上がり、値打ちが変わらなければ、顧客はやがてその品物を買わなくなるだろう。
 
 
売れる物を売れるだけ、どうやって安くつくるか、そのために、いろいろな仕事のやり方というものをみんなで考えていく。これがトヨタ生産方式である。
 
 
時代が変われば、どんどんものの考え方が変わっていかなければならない。
 
 
かんばん=生産指示書
この品物をこれだけ、この次にとりにくるまでにつくっておきなさい、というのが「かんばん」の基本的な働きである。
 
 
必要数が変わらなかったり、減産しているときに、量を増やして能力向上をはかるやり方、すなわち見かけの能率アップをしてはいけない。いくら困難であろうとも、工数低減をして能率を向上させることに挑戦しよう。
 
 
すべての判断は「実際に原価が安くなるか」「実際に業績に結びつくか」でなされなければならない。
 
 
売れない物をいくら能率よく安くつくっても、その会社は貧乏するだけである。
 
 
マン・アワー(Man Hour)の計算はできるが、その結果、「人不足だ」「やれない」と判断するのはいけない。マン・パワー(Man Power)は、けっして推し量れるものではない。知恵を出すことによって、能力は無限に拡大される。
 
 
ところで、世間では私のことをトヨタ生産方式の祖だとか、かんばん方式の創始者なとど言っているようですが、確かに一時期は大野方式という名前で、革新的なつくり方を試行錯誤しながらやってはきましたが、今日のトヨタ生産方式を築き上げたのは、豊田英二会長、亡くなった齋藤尚一相談役の励ましと、私の文句に歯を食いしばって協力してくれた、現場に働く大勢の人たちの努力以外の何ものでもありません。
 
 
現場なんかだったら、錯覚かどうかを確かめるにはすぐやってみる。たとえば、どこでもあると思うんだけれども、何かこうまとめて仕事をやると早くできるように思っておる人がいる。「一個ずつやりなさい」と言うと、そんなにしたら、とても能率が下がる、同じことを続けてたくさんやると能率が上がる、いわゆる生産性が上がると思い込んでおる。
 
 
(1)売価ー原価=利益
(2)利益=売価ー原価
(3)売価=原価+利益
こういうふうに三つの式がある。これはみんな意味が違うということが、算術屋さんには理解ができんことじゃないだろうか。
「この式における原価というのは何か?」と私なりに解釈すると、原価というものは下げるためにあるわけで、計算するためにあるんじゃない。
(1)式は、もう売値というものは決められちゃっているんだ。だから、どうしたってつくる人は原価を下げる。原価を下げたぶんだけ儲けが出るんだと。その結果が、今まで80円かかっておったのを50円でつくれるようになった。けれども売値は100円で売れるんだから、50円儲けたって、これは我々の努力で儲けたんだというふうで、たくさん儲けるというと、いろいろなところからしかられるかもしれんですけども、とにかく私は(1)式でものを考えるのがいいんだと思う。
 
 
我々の会社でも、工数低減ということを一生懸命にやる。ところが、工数低減をやると原価が下がるという錯覚が非常に多い。設備投資の場合でも、この間違いというのが非常に多くて、我々も非常に困っておるし、またこれの説得というのが、非常に相手がわからんので困る。
 
 
日本人というのは、機会損失を非常に恐れるクセがある。これは戦後、昭和三十年代から四十年代の終わりまで、いわゆる石油ショックのときまでは非常に高度成長をしておった。何かせっかく売れるのに、設備能力が足らんかった、人が足らんのでできん。そうすると儲けそこなっちゃったというのと、実際に損をしたというのと同じような意味で機会損失という。この損失という言葉、実損失と機会損失というのがあってだいぶ違うんだけれども、何か非常に損したような気になってしまう。この辺がやっぱり一つの錯覚だろうと思う。儲けそこなうというのは何も実害はないんで、実際に損するというのは実害があるということなんだけれども、この辺がどうもこっちゃになっている。
 
 
ある会社で「在庫を減らしました」と私に言うので、中をよく見ると、いわゆる材料が減っただけだった。こんなに材料が減ったら、あとで生産に困るんじゃないかと言うと、「いや、そんなことありません」と答える。それで工場を見せてもらうと、みんなそれが仕掛り品になって増えておる。
これは減量でも何でもない。だから、素材、原材料、こういうものは在庫の対象にしてはいかん。
(中略)
材料あるいは原料は相当持っていたって、経営体質には関係のないことであり、またある程度値が上がるとわかっておれば、安いうちに買っておく。
 
 
これも一般的な一つの錯覚による常識なんだけれども、何か量産すると安くなると一般的には考えられておる。そのおかげで、何か少量のものは高くなっても当たり前だという。これも一つの常識になっておるんじゃないだろうか。しかし、量産すると本当に安くなるということはあるだろうかということなんだけれども、また私もずいぶん今まであちこち見て回っておる中で、本当に量産して原価が安くなったという実例は非常に少ない。大体量産すると高くなっておる。
 
 
その利益を上げるのは、くどいようだけれども、原価を下げる努力をすることによって、もちろん業績も上げる努力をして、利益を上げることにつきる。ただ労働者を、昔の悪い言葉で言うと、こき使って、あるいは低賃金で使って儲けるんじゃなくて、本当に合理的に科学的に、いわゆるムダをなくすことによって原価を下げていく。そういう努力をするのが、とくにインダストリアル・エンジニア(生産技術者)の一番大事な仕事じゃないかなんてことを考えておる。
 
 
はじめ大野方式は昭和27、28年頃は、「スーパーマーケット方式」という名前でやり始めたんだよ。
 
 
安全だとか品質、こういうことはもう基本なんでね。誰でも気がつくのが、不良品をつくるというのは原価を高くするだけなんだということ。だから原価低減ということが一番基本になって品質管理というものをどうしてもやっていかんとダメだ、と。だから昭和30年頃、原価低減やらにゃいかんというときに、一番先に何をやったかというと、不良を減らそうということ。不良を減らすということは、それだけ原価が安くなるんだ。
 
 
トヨタは昭和24、25年につぶれかけた。これは月千台つくったけど売れなくてつぶれかけたんだね。それほど日本の経済界というのは、昭和24、25年は力がなかったんだ。だからトヨタが再建計画を立てるときに、千台つくったら売れんかもしれん、だから千台以下で、確か940台かなんかで再建計画を立てた。それが労働争議も終わって再建に取り掛かったところが、ちょうど朝鮮事変が始まって、特需車が日本へ注文されたんで、あれで助かった。
 
 
トヨタ生産方式は、そのときの立ち上がりに非常に効果があったんだけれども、その後どんどん生産量増えていったんで、結局トヨタ生産方式なんていうのは世間じゃ全然知らんかったかもしれん。たまたま石油ショック以降減産になったときでも、トヨタは利益を上げたということで、48、49年頃からトヨタ生産方式というのが注目を浴びてきたんだ。
 
 
トヨタ生産方式の一番の基幹になっておる「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」というものは、もう一つ本当を言うと、いかに安くつくるかというのがあるんだけれど、それは書いてないんでね。それでやりじまいというような感じを受けるんじゃないかな。
「要るものを要るだけ、いかに安くつくるか」ということがトヨタ生産方式なんだ。
 
 
本当は使っていかなければならんけれども、安易な自動化・ロボット化はちょっと考えものではないか。これは非常に大事なことなんだね。それはトヨタじゃ昔から言っておるし豊田合成にもやかましく言うんだけれども、こういうことが自動でやれますと言ってやるのはいかんということなんだ。自動化というものには、やはり順序がある。これはむずかしいけれども、どうしてもやらにゃいかん。ただ面白がってやる自動化は困る。ニーズから来なきゃいかんやつが、そのニーズが間違って、体面上がニーズになったりするのはいけない。
(中略)
ロボット化の一番のニーズは、原価が安くならなければおかしいということ。その次に危険な仕事ということに対しては、これは原価をある程度犠牲にしても、人間尊重という意味で使う場合もありうる。しかし危険な仕事、あるいは嫌な仕事でも、ロボットでやれんようなことは、これは人間がやらなければしょうがない。
 
 
「要らないものを処分することが整理であり、欲しいものがいつでも取り出せることを整頓という。ただ、きちんと並べるだけなのは整列であって、現場の管理は整理整頓でなければいけない」
 
 
それからもう一つ改善ということについて言うと、「作業改善」と「設備改善」「工程改善」などいろいろある。ここで言う改善は「作業改善」という意味なんだ。
まず、作業改善やって、その次に設備改善なら設備改善しなさい、と言いたい。それから工程改善といったように、改善には順番があると言うわけだ。
 
 
作業改善に関連して言うと、多台持ちといって、一人で何台もの機械を持ってやっているのがある。結局、これはトヨタ生産方式の基本的なものの考え方の中で、機械が仕事しておるのと、人間が仕事をしておるのとはっきり分けなさいということだ。
人が仕事しておるというのは、人でなければやれんことをやるのである。極端なことを言うと、機械が仕事しておるときにはそこには人はおらんでもいいのだ、という考え方。そういうことから多台持ちというのが最初出てきたんだね。
 
 
可動率というのは、その字のとおり動かすことの可能な率で、機械が故障で動きませんというのは、可動率が悪いことになる。可動率が悪いともちろん稼働率も自然に悪くなっていくが、可動率というのはできるだけ上げるようにして、100%になるような努力をしなさいということだね。
稼働率というのは、仕事がなきゃ、いくら機械を回してみたってしょうがない。稼ぎにならんちゅうわけだね。稼働率は仕事の有無によって外から決められることでも、もっと回さんと償却負担が大きくて損ですというんで、売れもせんものを一生懸命に機械を回すということはつまらんことである。
 
 
生産技術と製造技術ということを分けて考えているけれども、製造技術というものはつくり方をやっていく技術であり、生産技術というのはどうやったらそれができるかということをやる、というふうに我々は分けておる。
 
 
この間も、人事担当に言ったんだけども、現場が百人欲しいと言ってきたときには、十人やっとけばいい。すると現場はなんとかかんとかやりくって、つくるものなんだ。だから、百人おらんとできんなんて言って泣いてきたら十人ぐらいやって知らん顔しておれ。すると人事も九十人分の原価低減になる。
経理でも同じ。現場が在庫を減らした。その金が金庫の中に入った。これがあるので、資産運用で何%か利益を上げるようになった。だから現場がせっかく貯めた金を、うまく運用してやってくれれば、経理だって原価低減できるんですよ、と。そいつを、経理は割り当てればいいんだ。これだけにせんと儲かりませんとか、赤字です、だから製造部で何%原価低減してくれとか、設計のほうで何%原価低減しろと、こんなの割り当てたって、やってくれにゃなんにも実らんぞ、と。