
カルノーサイクルは熱機関の理想効率を示す基準であり、熱力学の第二法則を直感的に理解するための最重要モデルです。
本稿ではカルノーサイクルの4過程の詳細、効率導出、温度と効率の数学的関係、各種計算例、現実の機械との比較、設計上の帰結までを体系的に解説します。
特に計算式を多く盛り込み、実務での評価や数値検討にすぐ使える形で示します。
カルノーサイクルとは何か(基礎概念)
カルノーサイクルの定義と理想条件
カルノーサイクルは、可逆過程のみで構成された理想熱機関サイクルで、等温過程と断熱過程が交互に行われる4段階からなるサイクルです。
理想条件とは可逆であること、摩擦や不可逆熱伝達がないこと、作動流体が可逆的に変化することを意味します。
この理想化により「どんな熱機関でも超えられない最大効率」を理論的に与えてくれます。
カルノーの主張は簡潔で、任意の熱源温度 と
に対して、どのような可逆サイクルもカルノーサイクルの熱効率を越えられない、というものです。
作動流体と温度の取り扱い
カルノーサイクルでは作動流体を理想気体と仮定することが多く、状態方程式 を用いて計算が行われます。
温度は絶対温度(K)で扱いますので、摂氏温度 t からは に変換して使用します。
等温過程では熱源温度に作動流体温度が一致することが可逆性の要件です。
断熱過程では熱の出入りが無く、エントロピー変化が生じないことがポイントです。
カルノーサイクルの4つの過程(詳細)
等温膨張(高温源接触)——過程1→2
初期状態1において作動流体は高温熱源 に接して等温膨張を行い、外部に仕事を行いながら熱
を吸収します。
等温過程の吸熱は理想気体の内部エネルギー変化がゼロのため、吸収熱は仕事に等しくなります。
等温過程での仕事は次式で与えられます。
ここで と
はそれぞれ状態1と2の体積、
はモル数、
は気体定数です。
計算例:単位モル 、
、体積比
のとき、
断熱膨張(断熱での温度降下)——過程2→3
状態2から3では断熱膨張が行われ、外部に仕事をして内部エネルギーが減少することで温度が から
へ下降します。
断熱過程(可逆・断熱=断熱で等エントロピー)の関係は次式で与えられます(理想気体)。
ここで は比熱比です。
断熱過程の仕事は状態変数の変化で表せ、内部エネルギーの変化分が仕事へ変わります。
計算例:比熱比 、体積比
の場合、温度は
等温圧縮(低温源接触)——過程3→4
状態3では作動流体が低温熱源 に接して等温圧縮され、熱
を低温熱源へ放出します。
等温圧縮での仕事(外部からなされる仕事)と放出熱は次式となります。
ここで体積比 であり、対数は負となるため
が放出熱です。
計算例: 、
の場合、
断熱圧縮(復帰)——過程4→1
最後に断熱圧縮により作動流体は温度 から
へ戻り、サイクルが完結します。
断熱圧縮も断熱可逆過程であり、体積変化に応じて温度が上昇します。
断熱圧縮の仕事は
として計算可能です。
カルノー熱効率の導出(数学的)
効率の定義とエネルギーバランス
熱効率 はサイクルで取り出される正味仕事
を吸収熱
で割ったものです。
カルノーサイクルは可逆であるため、等温過程でのエントロピー変化を利用して を求めます。
可逆性とエントロピー関係による変形
等温過程1→2で吸収したエントロピーは
等温過程3→4で放出したエントロピーは
サイクルは可逆で全エントロピー変化はゼロであるため、
これを効率式に代入すると、カルノー効率が得られます。
具体的な計算例
例1:高温側 、低温側
の場合、
例2:高温側 、低温側
の場合、
温度を 800→1000K に上げることで効率は7.5ポイント向上することがわかります。
実務での応用と設計示唆
カルノー効率は理論値であり、現実の蒸気タービンや内燃機関は摩擦・伝熱損失のためにこの値を下回ります。
しかし、 を上げる、
を下げることは熱効率向上の基本方針であり、設計指針として重要です。
たとえば蒸気タービンの高圧ボイラー温度を 600→650℃ に上げると、計算上のカルノー効率は約2〜3%向上します。
圧力・体積変化を含む応用計算例
理想気体作動流体のサイクル計算
単位モルの理想気体、比熱比 、体積変化
の場合の各過程の仕事と熱量を計算します。
1→2 等温膨張:
2→3 断熱膨張:
3→4 等温圧縮:
4→1 断熱圧縮:
正味仕事:
熱効率:
温度差と効率の関係グラフ例
理論上、 が大きいほどカルノー効率は高くなります。
図にすると効率は の曲線に沿って上昇します。
実務では材料耐熱や安全率の制約で を無制限に上げられないため、低温側の放熱温度
を下げる努力も重要です。
まとめ
カルノーサイクルは理想熱機関の効率上限を示す基本モデルであり、熱源温度 と
の比により効率が決まります。
計算式を活用することで、サイクルの仕事量、熱量、効率を定量的に評価できます。
設計段階で高温側の限界と低温側の放熱温度を考慮することで、実際の機械設計に応用可能です。
理論値は現実の熱機関効率の目安となり、材料選定や熱源・放熱設計の基礎となります。


