
回転軸を連結するカップリングは、トルク伝達だけでなく、軸のずれや振動を吸収する役割も持っています。
カップリングを適切に選定するためには、許容トルクや軸のミスアライメント量を正確に計算することが重要です。
本記事では、カップリングの種類ごとのトルク容量計算方法、ミスアライメントの許容値算出、さらに具体的な計算例や設計上の注意点を詳しく解説します。
これを読むことで、軸継手設計に必要なトルク容量の把握と、現場での安全な選定方法が理解できます。
- カップリングの基礎知識
- カップリングのトルク容量計算
- 具体的な計算例
- カップリング種類ごとの許容トルク一覧 早見表
- 軸径・回転数別設計補助表
- カップリングのミスアライメント許容値早見表
- 設計上の注意点
- まとめ
カップリングの基礎知識
カップリングの役割
カップリングは、二軸間の回転運動を伝達するための機械要素です。
代表的な種類には、フレキシブルカップリング、ディスクカップリング、ギヤカップリング、ラバーカップリングなどがあります。
それぞれの種類で、許容トルク、軸方向・角度方向のミスアライメント吸収能力、振動減衰特性が異なります。
伝達トルクと許容トルク
カップリングの伝達トルクは、軸に入力される回転力により生じます。
許容トルク は、材料強度、カップリング形状、摩擦条件に基づいて設定されます。
設計時には、最大入力トルク が許容トルクを超えないように選定する必要があります。
カップリングのトルク容量計算
許容トルクの基本式
フレキシブルカップリングの場合、許容トルクは次式で表されます。
ここで、 はカップリング材質の許容せん断応力、
は有効断面積、
は力の作用半径です。
設計段階では、安全率 を掛け、実際の使用許容トルクとして調整します。
トルク容量と軸径の関係
軸径 とトルク容量の関係は、断面二次モーメントや軸剛性に依存します。
一般的には、円筒形のカップリングの場合、断面二次モーメント は次式で表されます。
この を基に、許容せん断応力とトルクを計算し、軸径に応じた適切なカップリングサイズを選定します。
ミスアライメントによる補正
軸の角度ずれ や平行ずれ
は、カップリングの内部応力を増加させます。
許容トルク は補正係数
を掛けて計算します。
一般的に は 1.05〜1.2 程度が用いられ、ずれ量が大きい場合はカップリングの種類を変更することも検討します。
具体的な計算例
例1:フレキシブルカップリングのトルク容量
軸径 、材質許容せん断応力
、有効断面積
、力作用半径
のフレキシブルカップリングの場合の許容トルクを計算します。
例2:ミスアライメント補正
上記条件で軸角度ずれ が発生すると、補正係数
を適用します。
この値が実際の使用上限トルクとなり、安全なカップリング選定に活用できます。
カップリング種類ごとの許容トルク一覧 早見表
前提条件
材質:鋼製カップリングの許容せん断応力
安全率:、補正係数:
軸径: を対象
| カップリング種類 | 軸径 |
許容トルク |
補正後許容トルク |
特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| フレキシブルカップリング | 20 | 150 | 136 | 角度ずれ 1°、平行ずれ 0.2mmを想定 |
| フレキシブルカップリング | 30 | 320 | 291 | 同上 |
| ディスクカップリング | 25 | 280 | 255 | 角度ずれ 0.5°、高剛性向き |
| ディスクカップリング | 40 | 600 | 545 | 高回転・高トルク対応 |
| ギヤカップリング | 30 | 450 | 409 | 高トルク・低回転向き |
| ギヤカップリング | 50 | 1000 | 909 | 大トルク軸用 |
| ラバーカップリング | 25 | 200 | 182 | 振動吸収能力あり |
| ラバーカップリング | 40 | 400 | 364 | 中回転・中トルク向き |
軸径・回転数別設計補助表
前提条件
最大入力回転数 と軸径
に応じたカップリングトルクを簡易に確認できる表です。
許容トルクは上記表の補正後値 を基準としています。
| 軸径 |
回転数 |
推奨カップリングサイズ | 補正後許容トルク |
備考 |
|---|---|---|---|---|
| 20 | 1500 | フレキシブル小型 | 136 | 軽負荷・標準ミスアライメント対応 |
| 25 | 1800 | ディスク中型 | 255 | 中負荷・低角度ずれ |
| 30 | 1200 | ギヤ中型 | 409 | 高トルク・低回転向き |
| 40 | 1500 | ディスク大型 | 545 | 高トルク・高回転向き |
| 50 | 1000 | ギヤ大型 | 909 | 大トルク軸用 |
補足説明
この表を使うことで、軸径や回転数に応じたカップリングの選定を簡易に行えます。
設計段階では、この目安値を基に、荷重条件や振動条件を加味して最終選定を行うことが推奨されます。
また、長期運転を考慮して、安全率や摩耗・経年変化を反映させた補正を行うと、より安全な設計が可能です。
カップリングのミスアライメント許容値早見表
前提条件
カップリング種類ごとの角度ずれ と平行ずれ
の目安を示します。
軸径 と回転速度
に応じた設計条件を考慮。
材質や摩耗を考慮した安全係数 を適用しています。
フレキシブルカップリング(ゴム/樹脂)
| 軸径 |
角度ずれ許容 |
平行ずれ許容 |
備考 |
|---|---|---|---|
| 20 | 2.0 | 0.3 | 軽負荷・中回転向き |
| 30 | 1.5 | 0.25 | 中負荷・標準用途 |
| 40 | 1.0 | 0.2 | 高負荷・中回転向き |
ディスクカップリング
| 軸径 |
角度ずれ許容 |
平行ずれ許容 |
備考 |
|---|---|---|---|
| 25 | 1.0 | 0.15 | 高剛性・低角度ずれ用途 |
| 40 | 0.8 | 0.1 | 高回転・精密軸用 |
| 50 | 0.5 | 0.08 | 大型軸用・高トルク向き |
ギヤカップリング
| 軸径 |
角度ずれ許容 |
平行ずれ許容 |
備考 |
|---|---|---|---|
| 30 | 0.8 | 0.1 | 低回転・高トルク向き |
| 50 | 0.5 | 0.08 | 大型軸用・高荷重設計 |
許容角度ずれや平行ずれは、運転中の振動や軸振れによって変動する可能性があります。
設計段階では、上記目安値に安全率を掛けて選定し、必要に応じてカップリング種類の変更や補強を検討してください。
また、長期運転では経年変化や摩耗を考慮し、定期的な点検・測定による補正が推奨されます。
設計上の注意点
カップリング選定のポイント
カップリングの選定では、軸径・伝達トルク・回転速度・ミスアライメント量など複数の条件を総合的に評価する必要があります。
特に起動時の負荷変動や突発的なオーバートルクを考慮し、安全率を適切に設定することが重要です。
カップリングの種類ごとに特徴が異なります。 ギヤカップリングは大トルク伝達が可能である一方、潤滑管理が必須。
ディスクカップリングは剛性が高く精密機器に適し、エラストマカップリングは振動吸収性に優れています。 用途に合わせた選定が不可欠です。
許容トルクを過大に見積もると、カップリングだけでなく軸やキー溝など周辺部品が破損する可能性があります。
必要トルクを満たしつつ、無理のないサイズ選定を行うことが求められます。
フレキシブルカップリングでは、ゴムや樹脂といった弾性体の温度特性・経年劣化を考慮する必要があります。
高温下では硬化、低温下では弾性低下が起きやすく、長期運転で許容トルクが低下するため、劣化を見込んだ設計が推奨されます。
現場での保全ポイント
カップリングは摩耗、ねじ緩み、潤滑不足、異物挟入などによって伝達能力が低下することがあります。
高速回転機では小さなバランスの狂いが振動増大につながるため、定期点検が重要です。
点検では、振動測定、軸芯ずれ量の確認、締付けトルクの点検などを行います。
レーザーアライメント工具を使えば高精度な芯出しが可能で、ミスアライメントが原因となる破損を未然に防げます。
長期運転設備では、荷重履歴や運転回数を記録し、設計値との比較により寿命予測を行います。
カップリングは消耗品であるため、予知保全を取り入れることで計画的な交換が可能となり、突発停止リスクを大きく低減できます。
まとめ
カップリングのトルク容量計算は、軸径・材質・ミスアライメントを考慮した安全設計に不可欠です。
許容トルクの計算とミスアライメント補正により、適切なカップリング選定が可能となります。
さらに、定期点検や荷重履歴の管理により、運転中の安全性と信頼性を確保できます。
本記事の計算方法と具体例を理解することで、設計段階から現場運用まで一貫して安全な軸継手設計が可能です。


