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配管の肉厚計算(内圧/配管設計):現場で使える早見表付き

プラント設備や圧送ラインの配管設計では、内圧によって管が破損しないよう、適切な肉厚の設定が不可欠です。

本記事では、薄肉管・厚肉管・高圧管を対象に、内圧・管径・材質に応じた肉厚計算方法を解説します。

計算式や代表例、さらに現場での安全率や補正係数の適用方法も紹介し、設計段階で即活用できる早見表も掲載しています。

これを読むことで、配管の安全設計に必要な肉厚算定の基本と実務的な応用方法が理解できます。

 

 

配管肉厚設計の基礎知識

配管肉厚の役割

配管は液体や気体を流す際、内部に圧力がかかります。

この内圧により配管は膨張したり、場合によっては破裂したりするリスクがあります。

 

配管の肉厚を適切に設計することで、これらのリスクを抑制し、機械設備やプラントラインの安全性を確保できます。

設計段階で肉厚を過小にすると、長期運用中に変形や破損が発生する可能性が高くなります。

逆に肉厚を過大にすると、材料費や重量が増加し、施工コストや設置コストにも影響します。

そのため、必要最小限の肉厚を確保しつつ安全性を満たすことが重要です。

 

肉厚は、配管材質の許容応力、内圧、管径、補強条件、溶接や曲管の有無などの設計条件によって決まります。

特に高圧プラントや圧送ラインでは、温度変化による熱応力や、流体の動圧・衝撃圧力も考慮する必要があります。

 

内圧による応力

配管に内圧 P が作用すると、配管壁には主に二種類の応力が発生します。

  • 円周方向応力(hoop stress)\sigma_h:配管の円周方向に沿って作用する応力で、破裂の主要原因となります。内圧が高い場合、この応力が最も大きくなり、設計上の重点評価ポイントとなります。
  • 軸方向応力(longitudinal stress)\sigma_l:配管の軸方向に沿って作用する応力で、通常は円周応力の半分程度ですが、配管の固定条件や長さによって変化します。軸方向応力は配管の支持条件や固定点での変形に影響します。

 

円周応力 \sigma_h は、薄肉管の場合、次式で求められます。

\sigma_h = \frac{P \cdot D}{2 t}

ここで、D は管内径、t は管肉厚です。

円周方向応力は内圧に直接比例し、管径に比例、肉厚に反比例するため、設計ではこれを基準に肉厚を決定します。

 

配管肉厚の計算式

薄肉管の内圧設計

薄肉管(D/t > 10)の場合、円周応力はほぼ管内面全体に均一に分布します。このため、許容応力 \sigma_{allow} を用いて必要肉厚 t を簡単に計算できます。

t = \frac{P \cdot D}{2 \cdot \sigma_{allow}}

 

設計段階では、安全率 n を考慮し、肉厚を増やすことが一般的です。

t_{design} = t \cdot n

 

この簡易計算式は、材質や溶接条件が標準的で、内圧が比較的小さい場合に有効です。高圧や長尺配管では、後述する厚肉管の計算や補正係数の適用が必要となります。

 

厚肉管の内圧設計

厚肉管(D/t < 10)では、内圧による応力が管厚方向に非線形に分布します。このため、薄肉管の近似式では設計が不十分となる場合があります。

 

厚肉管の円周応力とラジアル応力は、ラメの式により計算されます。

 

\sigma_r = \frac{P_i r_i^2 - P_o r_o^2 + (P_o - P_i) \frac{r_i^2 r_o^2}{r^2}}{r_o^2 - r_i^2}

 

\sigma_\theta = \frac{P_i r_i^2 - P_o r_o^2 - (P_o - P_i) \frac{r_i^2 r_o^2}{r^2}}{r_o^2 - r_i^2}

 

ここで、P_i は内圧、P_o は外圧(通常は大気圧)、r_i は内半径、r_o は外半径、r は任意の半径です。

厚肉管設計では、管内面および管外面の最大円周応力を確認し、材質の許容応力と比較して必要肉厚を算出します。

 

補正係数の適用

実務では、腐食、摩耗、溶接部や曲管による応力集中などを考慮して、肉厚に補正係数 \phi を掛けることが一般的です。

 

t_{design} = t \cdot \phi

補正係数は、運用条件や材質、保温・断熱条件、振動や衝撃の有無によって設定します。

例えば、腐食が予想される場合は \phi = 1.2~1.5 程度増加させることがあります。

 

計算例

薄肉管の例

内径 D = 100 \,\mathrm{mm}、内圧 P = 2 \,\mathrm{MPa}、材質許容応力 \sigma_{allow} = 150 \,\mathrm{MPa} の鋼管の必要肉厚を計算します。

 

t = \frac{2 \times 10^6 \times 0.1}{2 \times 150 \times 10^6} = 0.000667 \,\mathrm{m} = 0.667 \,\mathrm{mm}

 

安全率 n = 2 を考慮すると、設計肉厚は以下の通りです。

t_{design} = 0.667 \times 2 = 1.334 \,\mathrm{mm}

この値をもとに、施工時に許容誤差を加味して肉厚を最終決定します。

 

厚肉管の例

内径 D_i = 200 \,\mathrm{mm}、外径 D_o = 260 \,\mathrm{mm}、内圧 P_i = 5 \,\mathrm{MPa} の鋼管で、最大円周応力をラメの式で計算します。

 

\sigma_\theta = \frac{5 \times 10^6 \cdot 0.1^2 - 0 \cdot 0.13^2 - (0 - 5 \times 10^6) \cdot 0.1^2 \cdot 0.13^2 / 0.1^2}{0.13^2 - 0.1^2} \approx 17.5 \,\mathrm{MPa}

 

許容応力 100 MPa に対して十分な安全率が確保されていることが確認できます。

 

補正係数を加えた設計例

腐食や溶接部を考慮して補正係数 \phi = 1.2 を掛けると、薄肉管の設計肉厚は次の通り。

t_{final} = t_{design} \cdot \phi = 1.334 \times 1.2 = 1.6008 \,\mathrm{mm}

これにより、長期運用や過渡圧力に対しても十分な余裕が確保できます。

 

配管肉厚早見表(代表的鋼管・内圧設計)

前提条件

材質:炭素鋼(許容応力 \sigma_{allow} = 150\,\mathrm{MPa}

安全率:n = 2 を考慮

補正係数:\phi = 1.2 を適用(腐食・摩耗を考慮)

薄肉管として D/t > 10 の範囲で計算

 

管内径 D (mm) 内圧 P (MPa) 基準肉厚 t (mm) 設計肉厚 t_design (mm) 補正後肉厚 t_final (mm)
50 1 0.167 0.334 0.401
50 2 0.333 0.667 0.800
100 1 0.333 0.667 0.800
100 2 0.667 1.334 1.601
150 1 0.500 1.000 1.200
150 2 1.000 2.000 2.400
200 2 1.333 2.667 3.200
200 5 3.333 6.667 8.000
250 2 1.667 3.334 4.000
250 5 4.167 8.334 10.000

 

補足解説

この表は薄肉管を前提に、内圧に対する円周応力を計算した結果です。

t (基準肉厚) = \frac{P \cdot D}{2 \cdot \sigma_{allow}} により算出し、安全率 n と補正係数 \phi を掛けて設計肉厚と最終肉厚を決定しています。

 

現場では、曲管や溶接部の応力集中、腐食や摩耗を考慮して、さらに肉厚を追加する場合があります。

この早見表を使うことで、内圧・管径・材質に応じた目安の肉厚をすぐに確認でき、設計段階の判断を効率化できます。

 

厚肉管・高圧管の肉厚早見表

前提条件

材質:炭素鋼(許容応力 \sigma_{allow} = 150\,\mathrm{MPa}

安全率:n = 2 を考慮

補正係数:\phi = 1.2 を適用(腐食・摩耗を考慮)

厚肉管:内径/肉厚比 D/t < 10 を想定

ラメ式による最大円周応力 \sigma_\theta を使用して設計肉厚を算出

 

管内径 D_i (mm) 外径 D_o (mm) 内圧 P_i (MPa) 基準肉厚 t (mm) 設計肉厚 t_design (mm) 補正後肉厚 t_final (mm)
200 250 5 25 50 60
200 260 10 33 66 79
250 300 5 25 50 60
250 310 10 31 62 74
300 360 8 36 72 86
300 370 12 44 88 106
400 460 10 40 80 96
400 470 15 50 100 120

 

補足説明

この表は厚肉管におけるラメ式計算に基づき、管内圧と管径に応じた必要肉厚を示しています。

t (基準肉厚) は、最大円周応力が許容応力 \sigma_{allow} を超えないように算出しています。

設計肉厚 t_design は安全率 n を考慮して計算、さらに補正係数 \phi を掛けて最終肉厚 t_final を決定しています。

 

高圧管では、曲管や溶接部での応力集中や衝撃圧力を考慮してさらに余裕を持たせることが望ましいです。

現場では、この早見表を基準として、施工条件や運用環境に応じた最終的な肉厚を決定し、長期安全性を確保します。

 

まとめ

配管の肉厚設計では、内圧による円周応力と軸方向応力の両方を正確に評価することが不可欠です。

薄肉管・厚肉管それぞれの設計式や補正係数を活用し、材質の許容応力と安全率を十分に考慮することで、破裂や過大変形のリスクを防止できます。

具体的な計算例を参考にすることで、設計段階で必要肉厚を適切に決定でき、プラント設備や圧送ラインの安全性・耐久性を長期にわたり確保できます。