製造業における「マシンタイム」は、機械が稼働している時間を指し、生産性向上やコスト削減に直結する重要な指標です。
本記事では、マシンタイムの概念から実践的な改善手法、業界別事例まで、効率的な生産管理のためのポイントを詳しく解説します。
- マシンタイムの基本概念
- 自動車部品業界におけるマシンタイム活用例
- マシンタイムと混同されがちな「〇〇タイム」との違い
- マシンタイムの「見える化」とデータ収集技術
- マシンタイムと人件費・エネルギーコストの関係
- 関連する法規制と社会的背景
- マシンタイム向上のための実践的手法
- マシンタイムが生産性と利益に与える影響
- まとめ
マシンタイムの基本概念
「マシンタイム(Machine Time)」とは、機械が実際に稼働して加工・組立・搬送などの作業を行っている時間を指します。
これは製造業において、生産性、稼働率、原価管理の基礎となる非常に重要な指標です。単なる「時間」ではなく、「価値を生み出している時間」である点がポイントです。
例えば、ある工場でCNC旋盤が1日8時間のシフトで動いているとします。
このうち、材料の供給待ちや段取り替え、保守などで機械が停止している時間を除いた、実際に加工している時間がマシンタイムです。
つまり、見かけの作業時間と実際の生産に使われている時間との差を明確にすることで、改善の余地が可視化されます。
歴史的な背景
マシンタイムという考え方が明確に使われ始めたのは、20世紀中頃、特に第二次世界大戦後の工業化の加速期においてです。
当時、アメリカや日本の製造業が大量生産体制を確立するなかで、機械の稼働率や生産能力を正確に把握する必要性が高まりました。
特に日本では、トヨタ生産方式(TPS)の確立とともに「ムダの排除」や「稼働率の向上」が重要視され、その中でマシンタイムの管理が強く意識されるようになりました。
つまり、マシンタイムは単なる設備管理の用語ではなく、改善活動の出発点として発展してきた概念とも言えます。
現代のマシンタイム活用
今日では、IoTやセンサー技術の進化によって、マシンタイムのリアルタイム監視が可能になっています。
センサーデータから「いつ」「どの装置が」「どのように動いていたか」が自動記録され、ダウンタイム(停止時間)の原因分析やOEE(総合設備効率)の改善施策にもつながります。
また、環境負荷やエネルギー消費の観点からも、稼働率が低いのに電力や人員を無駄に消費していないかという視点でマシンタイムが注目されています。
つまり、マシンタイムの管理は、生産性向上・品質確保・エネルギー効率の最適化といった複数のテーマにまたがる、総合的な経営改善の要素なのです。
自動車部品業界におけるマシンタイム活用例
事例:エンジン部品工場のCNC旋盤
ある自動車部品メーカーでは、CNC旋盤を使用してエンジンバルブの加工を行っています。
この工場では、1台のCNC旋盤で理論上は1時間で100個の部品を加工できる仕様です。しかし、実際にはその半分の50個しか生産されていないことがわかりました。
調査の結果、以下のような「非稼働時間」が発生していることが判明しました。
・段取り替え(設定変更)にかかる時間:10分
・刃物交換にかかる時間:5分
・ワーク供給の遅延:5分
これらの非稼働時間を合計すると、10分 + 5分 + 5分 = 20分 となります。
つまり、1時間のうち20分は稼働していない時間となり、残りの40分間が実際に部品の加工に使われていたことがわかります。
実際の稼働時間を基に計算すると、
本来1時間で100個生産できるので、40分の稼働時間で生産できる部品数は
100個÷60分×40分=約67個
そのため、1時間で実際に加工された部品数は67個であり、非稼働時間が20分あったため、理論的には100個を加工する予定だったのに対して生産性が低下していることがわかります。
この問題に対処するため、同社では自動搬送システムや刃物の寿命予測を活用し、段取り替えや刃物交換の時間を短縮する施策を導入。これにより、マシンタイムの効率を改善し、生産性を大幅に向上させることができました。
マシンタイムと混同されがちな「〇〇タイム」との違い
製造現場では「マシンタイム」のほかにも、似たような言葉が複数登場します。ここではそれぞれの意味と、マシンタイムとの違いを整理します。
タクトタイム(Takt Time)
「顧客の需要に合わせて、何秒ごとに1つ生産すべきか」を表す指標です。
計算式は以下の通りです。
タクトタイム = 稼働時間 ÷ 顧客の必要数
たとえば、1日8時間(28,800秒)で240個を生産する必要があるなら、
タクトタイムは 28,800 ÷ 240 = 120秒。
つまり、「2分に1個」生産しなければならないという意味です。
マシンタイムとの違い:
マシンタイムは「実際に機械が動いていた時間」、タクトタイムは「理論的に必要な生産ペース」です。
サイクルタイム(Cycle Time)
「1個の製品を作るのにかかる実際の時間」を表します。
作業者がワークを取り付けて、加工し、取り外すまでを1サイクルとします。
たとえば、自動溶接ロボットが1つの溶接部品を完成させるのに60秒かかる場合、その設備のサイクルタイムは60秒です。
マシンタイムとの違い:
サイクルタイムは「単位あたりの生産時間」、マシンタイムは「一定期間中の総稼働時間」です。
リードタイム(Lead Time)
「最初の作業が始まってから、最終製品が出荷されるまでの合計時間」のことです。
原材料の投入から最終検査・出荷準備まで、すべての工程が含まれます。
たとえば、注文を受けてから納品までが7日なら、リードタイムは7日です。
マシンタイムとの違い:
マシンタイムは「機械単体の稼働時間」、リードタイムは「プロセス全体の経過時間」です。
ピッチタイム(Pitch Time)
「生産ラインにおける製品の出荷・排出の間隔時間」を表します。
特に混流ライン(複数種類の製品を一つのラインで生産する)で重要な概念です。
たとえば、5種類の製品を順に繰り返し出荷するラインで、1つが120秒ごとに出荷される場合、ピッチタイムは120秒です。
マシンタイムとの違い:
ピッチタイムは「製品の出荷間隔」、マシンタイムは「設備の動いている時間」です。
まとめ表:マシンタイムとの違い(比較)
用語 | 定義 | 主な対象 | マシンタイムとの違い |
---|---|---|---|
タクトタイム | 顧客需要に応じた理論的な生産間隔 | 顧客/生産計画 | 理想値 vs 実働時間 |
サイクルタイム | 1個あたりの加工にかかる実際時間 | 設備・作業 | 単位作業 vs 総稼働 |
リードタイム | 注文~出荷までの全体の経過時間 | 工程全体 | 工程時間 vs 設備稼働 |
ピッチタイム | ライン上での製品排出間隔 | 生産ライン | 排出タイミング vs 稼働そのもの |
マシンタイム | 機械が動いていた総時間 | 設備 | 他は「時間の定義」、これは「活動実態」 |
マシンタイムの「見える化」とデータ収集技術
従来、マシンタイムの記録は手作業やエクセルなどの簡易なツールで行われていました。
しかし、最近ではIoT技術を活用した「設備稼働監視システム」が普及しており、リアルタイムでデータを収集し、分析することが可能となっています。
例えば、工作機械メーカーのDMG森精機やファナックは、機械にセンサーを取り付け、リアルタイムで機械の稼働状況をクラウドに送信する仕組みを提供しています。
これにより、管理者は機械の状態を一目で把握し、必要なメンテナンスや改善策を迅速に講じることができます。
中小企業向けには、月額数千円で提供されるサブスクリプション型のマシンタイム管理サービスも増えており、データの収集と分析が手軽に行えるようになっています。
マシンタイムと人件費・エネルギーコストの関係
機械が稼働していない時間にも、電力や人件費は発生します。
このため、マシンタイムが短いと、製造コストが無駄に膨らむことになります。
例えば、1時間あたり5,000円の人件費と1,500円の電力費がかかるラインで、機械が30分しか動いていない場合、残りの45分間は何も生産していないにも関わらず、コストが発生しています。
このようなロスを削減するためには、無駄な停止時間を削減し、設備投資の効果を最大化することが求められます。
関連する法規制と社会的背景
製造業における法規制や社会的背景も、マシンタイムの効率化に影響を与えています。
2024年施行の改正労働基準法では、時間外労働の上限がさらに厳しくなり、企業は効率的に生産を行う必要が増しています。
この背景により、過剰な労働時間を削減し、機械の稼働時間を最大化することが求められています。
また、脱炭素社会を実現するための取り組みも進んでおり、エネルギー効率の悪い設備の稼働は環境負荷が大きくなるため、企業はエネルギー効率を重視した設備投資が求められています。
これにより、無駄な機械稼働を減らし、環境負荷の少ない生産が求められます。
マシンタイム向上のための実践的手法
マシンタイムを向上させるためには、実践的な手法が必要です。ここでは、製造業で特に有効な方法をいくつか紹介します。
・作業分析による無駄の特定
作業分析は、各作業がどれだけの時間を要しているかを明確にし、無駄な時間を削減するために行います。
たとえば、段取り替えや部品の準備にかかる時間を洗い出すことで、改善点が見つかります。
これにより、作業時間を短縮し、機械の稼働率を向上させることが可能です。
・全員参加の保全活動(TPM)
TPM(Total Productive Maintenance)は、設備のメンテナンスを全員で参加して行い、設備の稼働率を最大化する手法です。
定期的なメンテナンスだけでなく、日常的な点検や不具合の予兆検知を行い、設備の故障を未然に防ぐことが重要です。
・稼働率ボードの設置
工場内に稼働率を一目で確認できる「稼働率ボード」を設置することで、現場スタッフが自分の作業進捗を把握しやすくなります。
これにより、稼働の遅れや問題点をすぐに確認でき、迅速な対応が可能となります。
・自動化による省力化
自動化は、特に人手が足りない工場や作業が繰り返しである場合に有効です。
ロボットや自動搬送システムを導入することで、人的ミスや待機時間を減らし、マシンタイムを効率的に活用することができます。
特に、簡単な作業や重複作業においては、自動化が大きな効果を発揮します。
マシンタイムが生産性と利益に与える影響
今後、製造業における競争はますます激化する中で、マシンタイムの最大化は企業の生産性向上における重要な戦略となります。
特に、AIやIoTを活用した設備の監視・管理が進む中で、リアルタイムでマシンタイムを把握し、適切なメンテナンスや生産スケジュールの最適化が可能になります。
また、マシンタイムの向上は単にコスト削減に留まらず、製品の品質向上にも寄与します。
生産ラインの停止が減ることで、製品の品質が安定し、納期遅れや品質不良のリスクも減少します。これにより、企業の顧客満足度が向上し、競争力が強化されます。
さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)における取り組みが強化される中で、エネルギー効率の向上も求められています。
無駄なエネルギー消費を抑え、機械の稼働時間を最適化することは、企業の環境貢献にもつながります。
これからの製造業は、マシンタイムを戦略的に活用することで、持続可能な競争力を持つ企業へと成長していくことが期待されます。
まとめ
「マシンタイム」は、製造業における生産性と効率を向上させるための重要な指標です。
設備投資や工場運営の最適化を実現するためには、マシンタイムを最大化する取り組みが欠かせません。
今後、AIやIoTを活用した先進的な手法が進化する中で、マシンタイムは企業経営における競争力の源となることでしょう。