
VAとVEは似ていて混同されがちですが、実務では全く異なる目的と役割を持つ価値向上手法です。
本記事では、VAとVEの違いを基礎から整理し、製造業での使い分けや成功事例まで網羅的に解説します。
VAとVEとは何か?まず押さえるべき基本概念
VA(Value Analysis)の基本的な考え方
VAは量産中の既存製品を対象に、機能を変えずにコストを削減し、価値を高める改善手法です。
基本思想は に集約され、既存仕様を維持しながら改善余地を探ります。
そこで活きるのが量産で蓄積される実績データの活用であり、歩留まりの推移、工程内不良、材料の無駄など具体的な改善ポイントが浮き彫りになります。
例えば、同じ強度を保ちながら板厚を0.1mm薄くできないか、部品の統合が可能ではないかといった実践的な検討が中心です。
また製造・品質・購買が横断的に参加し、現場に根差した改善ができる点がVAの大きな強みです。
VE(Value Engineering)の基本的な考え方
VEは新製品やモデルチェンジなど設計段階で行う価値創出手法で、機能をゼロベースで見直せる自由度の高さが特徴です。
VAが既存仕様の最適化であるのに対し、VEは仕様そのものを再定義してより良い仕組みを設計する上流活動です。
例えば「冷却する」「支持する」「固定する」などの機能に分解し、別の工法や材料でより安価・高品質に実現できる手段を検討します。
そのため設計・開発・企画・生産技術まで関わり、製品の原理レベルから検討するケースも珍しくありません。
結果として、製品のコスト構造を根本から改善でき、市場での競争力に直結する活動となります。
VAとVEの大きな違いを整理する
VAとVEの最も大きな違いは、実施タイミングと変更の自由度です。
VAは量産後であり、変更可能な範囲が限られているため、工程改善や材料見直しなど限られた領域で効果を追求します。
一方VEは仕様決定前の検討であるため、構造、材料、部品数、設計コンセプトまでゼロから見直すことが可能です。
また、VAは担当部門が製造・品質・購買中心なのに対し、VEは企画・設計・生産技術など上流部門による戦略的検討が求められます。
この違いは企業の価値創出力に直結するため、正しい使い分けが極めて重要です。
VAとVEの役割を深掘りする:目的・対象・効果の違い
対象となる製品ライフサイクルの違い
VAは量産中の既存製品を対象とし、実績データや市場のフィードバックを活用した改善が中心となります。
例えば、一定期間のクレーム内容や製造データの解析により、改善効果が高いポイントを明確にできます。
VEは企画・設計段階で行い、まだ仕様が定まっていない段階で大きな設計変更が可能です。
そのため、新しい機構を採用したり、他製品の成功事例を取り込んだりと、自由度の高い価値向上が可能です。
企業はライフサイクルでVAとVEを使い分け、短期と長期の価値向上を両立させます。
コストダウンの着眼点の違い
VAは工程改善や材料見直しが中心で、既存仕様に縛られながらも確実な効果を狙う取り組みです。
たとえば加工順序の変更、治具の最適化、材料ロスの削減など、現場で実行可能な施策が多く存在します。
一方VEは仕様そのものの見直しが可能で、機能定義を改めることで大幅なコスト削減につながる設計変更ができます。
例えば部品点数を20点から5点に減らす、複雑な機構を廃止して別方式に置き換えるなど大規模な改善が実現可能です。
このため、VAは短期の改善、VEは長期のコスト最適化に向くという特徴があります。
成果の出るスピードの違い
VAは量産中で情報が豊富なため、短期間で効果を出すことができます。
具体的には四半期単位の原価改善など、企業の短期目標に直結する取り組みとして使われます。
VEは設計段階で行うため成果が出るまで時間がかかりますが、構造全体を変革できるため波及効果が非常に大きい特徴があります。
企業はVAによる短期改善と、VEによる中長期改善の両方を行うことで、継続的な価値向上を実現します。
実務でVAとVEをどう使い分けるか?判断基準を明確にする
改善目標が「原価低減」の場合
原価低減が目的で、設計を大きく変えずに効果を出したい場合はVAが適しています。
材料単価の見直し、加工条件の最適化、治具改善、サプライヤーとの交渉など、短期間で実施できる施策が多数存在します。
歩留まり改善や不良原因の除去など、製造現場の力が最大限発揮される領域でもあり、成果も出やすい点が特徴です。
短期で改善効果が求められる場合は、VAが確実な選択と言えます。
改善目標が「付加価値向上」の場合
新しい価値を生み出したい、性能を向上させたいといった目的の場合、VEが最も効果的です。
例えば、自動車では車体軽量化、静粛性向上、燃費改善など、製品コンセプトに関わる改善はVEの得意領域です。
家電では冷却性能、静音性、省エネ性など、設計段階の工夫が市場競争力に直結します。
機能定義そのものを見直すことで、新しい提案ができる点がVEの最大の強みと言えます。
市場要求の変化がある場合
製品スペックの改定が必要になるなど、市場要求が変化した際の対応規模に応じてVAとVEを使い分けます。
軽微な改善で済む場合はVAで対応できますが、性能・構造を大幅に変更する場合はVEが必要です。
特に市場競争が激しい分野では、VEによる大規模設計変更が競争力向上の鍵となります。
企業は市場変化を正しく捉え、両手法を柔軟に使い分けることが求められます。
具体例で理解するVAとVE:製造業での成功事例
自動車部品メーカーにおけるVA事例
ある自動車部品メーカーでは、シートフレームの工数増加が課題となっていました。
VAチームは部品構造を徹底的に分析し、2点の部品を一体化できる改善案を提案しました。
これにより溶接工程が削減され、作業者負荷も低減し、工数を15%削減する成果が得られました。
さらに材料置換を行い、材料費も約8%低減し、短期間で大きな効果が得られました。
家電メーカーにおけるVE事例
扇風機の新モデル開発で、要求風量と目標原価が折り合わない課題が発生しました。
VEチームは「風を送る」という機能を再定義し、羽根形状とモーター仕様の組み合わせをゼロベースで見直しました。
その結果、羽根枚数を減らしながら風量を維持できる形状を採用し、モーターも小型化に成功しました。
これにより原価を12%削減しつつ性能維持を実現し、新モデルの競争力向上に大きく貢献しました。
産業機器メーカーにおけるVA/VE併用事例
産業用ロボットメーカーでは、既存モデルのVAと次期モデルのVEを同時に進行しました。
VA活動では配線ルートの最適化や部品統合を実施し、短期で効果を得ました。
一方VEではフレーム構造の根本見直しを行い、軽量化と剛性向上を両立する新構造を採用しました。
この併用により、既存モデルの原価低減と次期モデルの競争力強化という両面で成功を収めました。
まとめ
VAは量産後の既存製品に対する短期的な原価改善、VEは設計段階での本質的な価値創出手法です。
両者は似ているようで適用場面が異なるため、正しく理解して使い分けることが重要です。
企業はVAとVEの両輪で継続的に価値を高め、競争力を向上させていくことが求められます。


