
ベアリングは回転機械の重要な部品であり、寿命管理は機械保全において不可欠です。
正しい寿命計算を行うことで、故障の予測や予防保全計画を立てることが可能になります。
本記事では、負荷・回転数・使用条件に基づく**L10寿命**の算出方法を具体例とともに解説し、ベアリング選定や保全計画に役立つ知識を網羅的に紹介します。
ベアリング寿命の基礎知識
L10寿命とは何か
L10寿命とは、同一条件下で稼働するベアリング群のうち、90%がまだ故障せずに稼働できる時間または回転数を示す指標です。
つまり、L10寿命を過ぎると、統計的に10%のベアリングで故障が発生することを意味します。
保全や設計では、L10寿命を基準にベアリング選定や交換周期を決定するのが一般的です。
基本寿命計算式
従来のベアリング寿命計算は、ISO 281に基づき次式で表されます。
ここで、Cはベアリングの基本動定格荷重(N)、Pは作用する等価動荷重(N)、pは軸受の種類に応じた指数です。
ボールベアリングの場合p = 3、ローラーベアリングの場合p = 10/3が一般的です。
等価動荷重の算出
ラジアルベアリングの場合、等価動荷重Pは次式で求めます。
F_rはラジアル荷重、F_aはアキシアル荷重、XとYは荷重係数で、ベアリングカタログにより決定されます。
これにより、複合荷重条件下でも基本寿命計算が可能です。
回転数による時間換算
L10寿命は回転数と使用時間に換算可能です。
ここで、nは軸の回転数(rpm)、L_{10h}は時間換算寿命(h)です。
これにより、ベアリング交換周期や保全スケジュールを具体的に計画できます。
ベアリング寿命の具体的計算例
ラジアルボールベアリングの計算例
例として、6004型ラジアルボールベアリング、基本動定格荷重C = 11.2kN、ラジアル荷重F_r = 5kN、アキシアル荷重F_a = 1kN、回転数n = 1800rpmの場合を考えます。
荷重係数はX = 1、Y = 0.5とします。
等価動荷重Pは、
基本寿命は、ボールベアリングのp = 3を用いて
回転数1800rpmでの寿命時間は、
となります。設計上は安全率を考慮して、交換周期を計画します。
アキシアルベアリングの計算例
例として、7200型スラストボールベアリング、基本動定格荷重C = 12kN、アキシアル荷重F_a = 4kNのみ作用する場合を考えます。
ラジアル荷重が無いため、X = 0、Y = 1として等価動荷重Pを算出します。
基本寿命(p = 3)は、
回転数n = 1000rpmでの寿命時間は、
高寿命のため、長期運転が可能です。
複合荷重ベアリングの計算例
6006型ラジアルベアリングに、ラジアル荷重F_r = 6kN、アキシアル荷重F_a = 3kN、回転数n = 1500rpmで使用する場合を考えます。
カタログより荷重係数X = 1、Y = 1.2を適用すると、等価動荷重は
基本寿命(p = 3):
時間換算寿命:
短寿命となるため、負荷軽減やベアリングのグレードアップを検討する必要があります。
設計上の考慮点
安全率の適用
L10寿命は統計的指標であり、設計上は安全率を適用します。
一般的に1.2~1.5倍の安全率を見込み、実運転条件下で寿命が短くならないようにします。
潤滑条件と温度の影響
ベアリングの寿命は潤滑状態や温度によって大きく変化します。
潤滑不良や高温運転では摩擦が増加し、実寿命はL10計算値より短くなるため、潤滑管理や温度監視が重要です。
振動や衝撃荷重への対応
実運転では衝撃荷重や振動が発生することが多く、これらは寿命を短縮させます。
設計段階で想定外の衝撃がかからないよう荷重条件を検討し、必要に応じて衝撃荷重補正を行います。
現場での保全ポイント
ベアリング交換時期は、L10寿命だけでなく、実運転条件や振動・温度データに基づき決定します。
定期的な点検、潤滑油の交換、異音・振動の監視などを組み合わせることで、予防保全を効率的に実施できます。
まとめ:ベアリング寿命設計のポイント
ベアリングのL10寿命は、負荷・回転数・材質に基づき正確に計算することが重要です。
安全率の適用や潤滑・温度管理、衝撃荷重への配慮により、予防保全計画を立て、機械の信頼性を確保できます。
現場では定期点検や振動監視を組み合わせることで、ベアリング寿命の延長と突発故障の防止に役立ちます。


