
ベルト伝動は、モータの回転運動を効率よく機械に伝える基本的な動力伝達手段です。
しかし、適切な**ベルト張力**を設計段階で計算しておかないと、ベルトの寿命低下やスリップといったトラブルが発生します。
本記事では、プーリー径や回転数、摩擦係数などの条件からベルト張力を求める方法を具体例とともに解説し、設計時の注意点や寿命評価への応用までを網羅的に紹介します。
ベルト伝動とは何か
ベルト伝動の基本構造と種類
ベルト伝動は、ベルトとプーリーを組み合わせて回転運動を伝える方式です。
代表的な種類として、平ベルト、Vベルト、タイミングベルトがあります。
平ベルトは柔軟性が高く、大径プーリーでの低速伝動に適しています。
Vベルトはプーリー溝に嵌ることで摩擦力が増し、より高トルクの伝達が可能です。
タイミングベルトは歯付きでスリップがなく、正確な回転角度の制御が必要な場合に使用されます。
ベルト伝動の役割と利点
ベルト伝動の主な役割は、**回転速度の変換**と**動力の伝達**です。
ギアと比べて振動や騒音が少なく、メンテナンスも容易です。
さらに、過負荷時にはベルトが滑ることで機械を保護する「過負荷保護機能」も備えています。
製造ラインや搬送装置、工作機械など、幅広い産業で利用されています。
張力が重要な理由
ベルトの張力は、伝達効率や寿命に直結します。
張力が低すぎるとスリップが発生し、動力が正しく伝わりません。
逆に高すぎるとベルトや軸受けに過大な負荷がかかり、摩耗や破損の原因になります。
そのため、設計段階で適切な張力を算出することが不可欠です。
ベルト張力の基礎理論
摩擦式伝動の基本式(Capstan式)
摩擦式ベルト伝動では、ベルトがプーリーに巻き付く角度と摩擦係数から**最大伝達力**が決まります。
この関係はCapstan式で表されます。
ここで、T1は張力の小さい側、T2は張力の大きい側、μは摩擦係数、αはプーリーの巻き付き角(ラジアン)です。
この式により、ベルトが滑らずに伝達できるトルクの範囲を計算できます。
プーリー径と回転数による影響
プーリー径は張力計算に直接関わります。
大径プーリーでは同じ回転数でもベルト速度が速くなり、張力の変化が小さくなるため、摩耗が抑えられます。
一方、小径プーリーでは張力変動が大きくなり、ベルトの負荷も増加します。
回転数が高い場合、ベルト慣性や遠心力も考慮する必要があり、張力設計に反映させます。
摩擦係数と材質の選定
摩擦係数μは、ベルト材質とプーリー材質、表面状態に依存します。
一般的にVベルトは摩擦係数が0.2〜0.35、平ベルトは0.1〜0.2程度です。
材質選定では、摩耗率や温度上昇、潤滑条件を考慮して最適な組み合わせを決定します。
摩擦係数が小さいと張力を増やす必要があり、逆に大きいとスリップ防止が容易になります。
ベルト張力の計算手順
設計条件の整理
張力計算を行う際は、まず伝動系の設計条件を整理します。
具体的には、駆動側と従動側のプーリー径、ベルトの種類、回転数、必要伝達トルクを確認します。
例えば、搬送機用のVベルト伝動で、駆動側プーリー径150mm、従動側プーリー径300mm、回転数1000rpm、必要伝達トルク50N·mの場合を考えます。
摩擦係数はベルト材質とプーリー表面から0.25と仮定します。
これらの情報をもとに張力の上限・下限を算出します。
張力比とCapstan式の適用
ベルト伝動では、張力の大きい側T2と小さい側T1の比が摩擦係数と巻き付き角で決まります。
Capstan式を使うと、T2/T1 = e^{\mu \alpha}で表されます。
例えばVベルトでプーリーの巻き付き角が180°(πラジアン)の場合、T2/T1 = e^{0.25×π} ≈ 2.18となります。
つまり、小側張力T1の約2.18倍が大側張力T2となり、伝達トルクに対応する張力を計算できます。
伝達トルクからの張力算出
プーリー半径rを使って、伝達トルクMとベルト張力T2、T1の関係は次式で表されます。
先ほどの例で、駆動プーリー半径0.075m、伝達トルク50N·mの場合、
T2/T1 = 2.18 なので、T2 - T2/2.18 = 50/0.075 からT2 ≈ 77.5N、T1 ≈ 35.6Nと求まります。
この値を設計上のベルト張力として採用します。
ベルト張力設計の応用
スリップ防止の確認
計算した張力でベルトが滑らないか確認します。
必要伝達トルクをベルトの張力差が満たしていれば、スリップは発生しません。
Vベルトでは摩擦係数が設計値より低下すると滑りやすくなるため、余裕を見て張力を増やすことがあります。
また、巻き付き角を増やす、プーリー径を大きくすることでスリップを防止できます。
ベルト寿命への影響
張力はベルトの摩耗や寿命に直接影響します。
過大張力はベルトコグや繊維を損傷し、過小張力はスリップによる摩耗を招きます。
一般的に、メーカーが推奨する張力範囲内で設計することが重要です。
さらに、張力を長期間一定に保つため、テンショナやアイドラを設置して張力変動を吸収する方法もあります。
実務での計算例(搬送ライン)
例えば食品搬送ラインのVベルト伝動で、駆動側プーリー径120mm、従動側200mm、伝達トルク30N·m、回転数1500rpmの場合を考えます。
摩擦係数0.3、巻き付き角160°(2.79ラジアン)として、T2/T1 = e^{0.3 × 2.79} ≈ 2.29。
伝達トルクより、30 = (T2 - T1) × 0.06 → T2 ≈ 55.5N、T1 ≈ 24.2Nと算出されます。
設計時には安全率1.2倍を考慮し、最終的な張力はT2 ≈ 66.6N、T1 ≈ 29.0Nと設定します。
このように実際の搬送機械での張力計算は、摩擦係数やプーリー径の違いを加味して行われます。
まとめ~ベルト伝動設計のポイント~
ベルト張力は伝達効率や寿命、スリップ防止に直結する重要な設計要素です。
プーリー径、回転数、摩擦係数をもとにCapstan式を適用することで、必要張力を正確に算出できます。
具体例としてVベルト伝動での計算手順を示しましたが、実務では安全率やテンショナの使用も考慮して設計します。
正しい張力設計により、機械の安定稼働とベルト寿命延長を両立できます。


