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ねじの締付けトルク計算:基礎と応用の計算実例

ねじの締付けは、機械構造の安全性と性能維持に直結する重要な工程です。

適切な**締付けトルク**を算出しなければ、ねじの緩みや部品損傷、機械トラブルの原因になります。

本記事では、ボルト径・摩擦係数・荷重から締付けトルクを計算する方法を具体例とともに解説し、現場での品質トラブル防止に役立つ知識を網羅的に紹介します。

 

 

ねじ締付けの基礎知識

ねじ締付けの目的と重要性

ねじ締付けの主な目的は、部品同士を確実に結合し、設計通りの荷重を保持することです。

締付けが不足すると緩みやすく、過剰締付けはねじや部材の破損を招きます。

産業機械、自動車、航空機など、あらゆる分野で正しい締付けは品質維持に不可欠です。

 

トルクと張力の関係

ねじ締付けにおけるトルクTは、ボルトにかかる引張力Fと摩擦に依存します。

ボルトに適切な引張力を与えることで、接合部が確実に締結されます。

摩擦の影響を無視すると、トルクだけでは正確な張力制御ができないため、摩擦係数を考慮することが重要です。

 

摩擦係数の影響

ねじの締付けトルクは、ねじ山と座面の摩擦係数によって大きく変わります。

一般的に、未潤滑の鉄ねじは摩擦係数0.15~0.2、潤滑した場合は0.1前後になります。

摩擦が大きいと、同じトルクでもボルトにかかる引張力は低くなり、締付け不足の原因となります。

 

締付けトルクの基本計算式

一般的な締付けトルク式

ねじ締付けトルクTは、ボルトに作用する軸力F、ねじの有効径d_m、摩擦係数μを用いて次式で表されます。

 T = K \cdot F \cdot d_m

ここで、Kは締付け係数(摩擦係数に依存)、Fはボルトに必要な引張力、d_mはねじの有効径です。

締付け係数Kは経験式やメーカー資料から求めます。未潤滑のM10ボルトではK ≈ 0.2、潤滑済みではK ≈ 0.15が目安です。

 

ねじ山と座面摩擦を考慮した式

より精密に計算する場合は、ねじ山と座面摩擦を分けて考えます。

 T = F \cdot \left( \frac{d_2}{2} \tan \lambda + \mu_t \frac{d_2}{2} + \mu_c \frac{d_c}{2} \right)

ここで、d_2はねじの中径、λはねじのねじれ角、μ_tはねじ山摩擦係数、μ_cは座面摩擦係数、d_cは座面直径です。

この式により、摩擦条件の違いを正確に反映したトルク計算が可能です。

 

設計荷重との関係

締付けトルクは、接合部に必要な設計荷重F_desに基づいて決めます。

例えば、M12ボルトで部材を5000Nで締結する場合、未潤滑の摩擦係数0.18を適用すると、T = K * F * d_m ≈ 0.2 * 5000 * 0.012 ≈ 12N·mとなります。

この値を設計トルクとして設定することで、適切な締結力を得ることができます。

 

締付けトルクの計算例

M6ボルトの計算例

例としてM6ボルトを使用し、設計荷重F_des = 2000N、未潤滑摩擦係数μ = 0.18、有効径d_m = 5.35mmの場合を考えます。

締付けトルクは、

 T = K \cdot F \cdot d_m

K ≈ 0.2を適用すると、

 T = 0.2 \cdot 2000 \cdot 0.00535 ≈ 2.14\,\mathrm{N·m}

となります。この値を標準トルクとして設定することで、スリップや緩みを防止できます。

 

M10ボルトの計算例(潤滑あり)

潤滑済みのM10ボルトで、設計荷重F_des = 5000N、摩擦係数μ = 0.12、有効径d_m = 8.5mmの場合、K ≈ 0.15を使用します。

締付けトルクは、

 T = 0.15 \cdot 5000 \cdot 0.0085 ≈ 6.38\,\mathrm{N·m}

潤滑による摩擦低下を考慮したトルク設定により、過大締付けによるボルト破損リスクを軽減できます。

 

M12ボルトの高荷重計算例

重荷重用M12ボルト、F_des = 12000N、未潤滑摩擦係数μ = 0.2、有効径d_m = 10.5mmを例にします。

締付けトルクは、

 T = 0.2 \cdot 12000 \cdot 0.0105 ≈ 25.2\,\mathrm{N·m}

設計上は安全率1.2倍を考慮して、最終トルクは30.2N·mと設定することが現場では一般的です。

 

設計上の注意点

摩擦条件の変動

現場ではねじ山や座面の摩擦係数がバラつくことがあります。

摩擦が大きいと必要トルクに対して張力が不足し、緩みやスリップの原因となります。

潤滑状態や表面処理の違いを考慮して、設計トルクに適度な余裕を持たせることが重要です。

 

複数ボルト接合の場合

複数のボルトで部材を締結する場合、各ボルトに均等に荷重が分配されるとは限りません。

偏荷重や外力により一部ボルトに過大な力がかかることがあります。

このため、締付け順序やトルク管理を徹底し、接合部全体の荷重分布を均一にすることが求められます。

 

現場でのトラブル防止策

締付けトルク不足による緩み、過大トルクによるねじ破損は現場での代表的なトラブルです。

トルクレンチを使用した管理や、適切な潤滑、締付け順序の遵守により、トラブルを防止できます。

さらに、長期運転を想定する場合は、定期点検でトルク確認を行うことが推奨されます。

 

計算支援ツールの活用

ボルトサイズや荷重条件が複雑な場合、計算式だけではミスが発生しやすいです。

Excelや専用ソフトを用いて、複数ボルトや摩擦条件を一括計算すると、設計精度が向上します。

現場でも同様のツールを使用することで、締付けミスやトラブルを低減できます。

 

まとめ~ねじ締付けトルク設計のポイント~

ねじの締付けトルクは、ボルト径、摩擦係数、荷重に基づき正確に算出することが重要です。

適切なトルク設定により、緩みや過大締付けによる破損を防ぎ、機械の安全性と部品寿命を確保できます。

複数ボルト接合や摩擦条件の変動も考慮し、計算例やトルク管理ツールを活用することで、現場での品質トラブル防止につながります。