
「うちの現場は多品種少量生産だから、MSA(測定システム解析)なんてとてもじゃないけど無理だよ」
そう感じて諦めている現場リーダーや品質保証担当の方も多いのではないでしょうか。
確かに、教科書通りのMSAを行うには、「同一のサンプル」を「複数の作業者」が「繰り返し測定」する必要があります。しかし、毎日違う製品が数個ずつ流れるような多品種少量の現場では、この前提条件をクリアするだけで一苦労です。サンプルを確保しようにも次々と出荷されてしまい、測定者を複数人確保しようにも全員が別の段取りに追われている、というのが現実ではないでしょうか。
しかし、だからといって「測定の信頼性評価」を放棄してよいわけではありません。むしろ、品種が多いからこそ、段取り替えのたびに測定条件が変わり、測定ミスによる不良流出のリスクは高くなります。多品種少量生産こそ、測定システムの管理が品質の命綱となるのです。
実は、MSAには多品種少量生産に適したアプローチや、現場の負荷を抑えた現実的な運用手法が存在します。
この記事では、MSAの基礎知識から、多品種少量現場での具体的な実施ステップ、そして評価結果を現場改善につなげるための実践的なポイントまでを、実務に即して徹底的に深掘り解説します。
- そもそもMSA(測定システム解析)とは?
- 多品種少量生産におけるMSAの「3つの壁」
- 【解決策】多品種少量でMSAを行うための3つの戦略
- 実践!多品種少量向けMSAの具体的な手順
- MSA結果が悪かった時の改善アプローチ
- 多品種少量におけるMSA運用のコツ
- まとめ
そもそもMSA(測定システム解析)とは?
MSA(Measurement System Analysis)とは、測定値そのものではなく、「測定システム全体」がどれだけ正確で信頼できるかを評価するための統計的手法です。
製造現場において、「製品の寸法が公差から外れている」という事態が発生したとします。このとき、多くの人は「製造工程(加工機や作業者)に問題がある」と考えがちです。しかし、実は「製品は良品なのに、測定器が狂っていた」あるいは「測り方が悪くてNG判定になった」というケースが意外に多いのです。
ここで言う「測定システム」とは、単なる「測定器(ノギスやマイクロメータ)」だけを指すのではありません。以下の要素すべてを含んだものを指します。
- 測定器(ゲージ、試験機、センサー)
- 測定者(作業者のスキル、視力、癖、体調)
- 測定対象(製品の形状、材質、表面粗さ、弾性)
- 測定方法(手順、治具、固定方法、環境温度、湿度)
これらが複雑に絡み合って、「測定値のバラつき」が生じます。MSAは、このバラつきの原因を分解し、「測定器が悪いのか?」「人の測り方が悪いのか?」それとも「製品そのもののバラつきなのか?」を特定するための強力なツールです。
MSAで評価する5つの特性
MSAでは、測定システムの信頼性を以下の5つの観点から多角的に評価します。
1.偏り(Bias):真の値(基準値)と、測定値の平均とのズレのことです。例えば、基準となるブロックゲージ(正確に10.00mm)を測ったときに、いつも10.05mmと表示されるなら、+0.05mmの「偏り」があると言えます。これは主に測定器の校正ズレや摩耗が原因です。
2.安定性(Stability):時間の経過とともに測定値が変化しないかを見ます。朝一番に測った値と、夕方に測った値がズレていないか、あるいは1ヶ月後に測っても同じ値が出るか、といった経時的な安定性です。温度変化によるドリフトや、測定子の摩耗などが影響します。
3.直線性(Linearity):測定範囲全体で、偏りが一定かどうかを見ます。例えば、小さいサイズ(10mm)の時は正確に測れるのに、大きいサイズ(100mm)になると誤差が大きくなる、といった傾向がないかを確認します。測定器の機構的な歪みなどが原因となります。
4.繰返し性(Repeatability):【測定器の変動(EV)】と言われます。同一の測定者が、同一の測定器で、同一の部品を複数回測定したときのバラつきです。これが大きい場合、測定器自体の性能不足、メンテナンス不足、あるいは治具の固定精度が甘いことなどが疑われます。
5.再現性(Reproducibility):【作業者の変動(AV)】と言われます。異なる測定者が、同一の測定器で、同一の部品を測定したときの平均値の差です。Aさんは平均して大きめに測り、Bさんは小さめに測る、といった傾向差を見ます。測定スキルの差や、手順書の曖昧さ、目線の位置の違いなどが原因です。
特に、現場で最も重視されるのが、4と5を合わせた「ゲージR&R(Gauge Repeatability and Reproducibility)」です。これが、測定ばらつき全体のどれくらいを占めているかを分析することで、改善のアクションにつなげます。
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多品種少量生産におけるMSAの「3つの壁」

自動車部品の量産ラインのような環境であれば、同じ製品が何千個と流れるため、そこからサンプルを抜き取ってMSAを行うのは容易です。しかし、受注生産や試作開発などの多品種少量生産では、以下の「3つの壁」が立ちはだかり、MSAの実施を阻みます。
壁1:サンプルの確保が難しい
MSAの基本である「平均値-範囲法(Average and Range Method)」では、通常10個程度のサンプルが必要とされます。さらに、それぞれのサンプルに対して、測定範囲全体をカバーするような寸法のバラつき(小さいものから大きいものまで)が含まれていることが理想です。
しかし、1ロットが3個や5個しかない生産現場では、そもそも10個もサンプルが集まりません。無理に集めようとすると、数ヶ月分の生産ロットを待たなければならず、評価が完了する頃には製品仕様が変わっていることさえあります。
壁2:測定の再現が難しい
MSAの大前提は、「同じ状態のものを繰り返し測る」ことです。しかし、生産現場は常に動いています。製品は検査が終わるとすぐに出荷梱包されたり、次工程で熱処理や表面処理が行われて寸法・形状が変わったりします。
「昨日測ったものを、今日も測る」ということが物理的に不可能なケースが多く、もし実施するとなると、出荷を止めることになり、リードタイムの遅延や仕掛品の滞留スペース問題を引き起こしてしまいます。
壁3:品種ごとの条件設定が膨大
品番Aと品番Bでは、形状も測定箇所も公差も異なります。通常、MSAを行う際は、その製品を固定するための専用治具や、測定ポイントを指示した詳細な手順書を用意します。
しかし、数千点もの品番がある現場で、そのすべてに対して「MSA専用の準備」をすることは不可能です。「品番A専用の治具」を作ってMSAを行っても、明日流れる品番Bには適用できず、労力に見合った効果が得られにくいのです。結果として、「手間がかかりすぎる」という理由で敬遠されてしまいます。
【解決策】多品種少量でMSAを行うための3つの戦略
これらの壁を乗り越え、現実的にMSAを運用するための3つの戦略を紹介します。発想の転換が必要です。
戦略①:製品ではなく「測定プロセス」を評価する
「すべての品番についてMSAを行う」というのは現実的ではありません。そこで、評価の対象を「品番」から「測定プロセス」に切り替えます。
例えば、「ノギスで外径を測る」というプロセスは、品番Aでも品番Bでも、測定する対象が円柱形状であれば共通しているはずです。この場合、代表的な(あるいは測定が難しい)品番を一つ選び、それを「ノギスによる外径測定プロセスの代表選手」としてMSAを実施します。
この結果が合格であれば、「このノギスとこの測定手順を使っている限り、他の類似品番でも測定信頼性は担保されている」とみなすのです。これを「ファミリー化(グループ化)」の考え方と呼びます。これにより、数千品番あった対象を、数種類の測定プロセス評価に集約でき、実施回数を劇的に減らすことができます。
戦略②:ダミー部品(マスター部品)を活用する
製品そのものを使わず、MSA評価専用の「ダミー部品(マスター)」を用意するという手もあります。実際の製品に近い形状・材質・硬度のものであれば、過去の不良品や、テスト加工で生じた端材を活用しても構いません。
このダミー部品を「MSA用標準サンプル」として現場に常備しておき、定期的に(例えば週1回や月1回)、作業者がそのダミーを測定してデータを記録します。これなら、実際の製品が出荷されてしまっても問題ありません。いつでも同じものを測定できるため、長期的な安定性の評価も可能になります。
戦略③:簡易手法「レンジ法」を採用する
正式な「平均値-範囲法」は、データ数も多く計算も複雑です。現場での日常管理には、より簡易的な「レンジ法」がおすすめです。
レンジ法では、2人の測定者がそれぞれ同じ製品を1回ずつ測定し、その差(レンジ)のみに着目します。サンプル数も5個程度で済みます。「Aさんが測ったら10.01mmだったけど、Bさんが測ったら10.03mmだった。差は0.02mmあるな」という事実を積み上げていきます。
厳密な「再現性(AV)」と「繰返し性(EV)」の分離はできませんが、「今の測定システムに異常がないか」「人による誤差が大きくなっていないか」を素早くチェックするには十分な手法です。まずはここから始めるのがハードルを下げるコツです。
実践!多品種少量向けMSAの具体的な手順

それでは、実際に現場でMSAを進める手順をステップバイステップで解説します。
STEP 1:評価対象のグループ化(ファミリー化)
まず、現場にある膨大な品番を、測定の類似性でグループ分けします。これをサボると、どの品番で評価すべきか迷走します。
- 測定器の種類:ノギス、マイクロメータ、ハイトゲージ、三次元測定機など
- 測定箇所の特徴:外径、内径、深さ、ピッチ、幾何公差など
- 公差レベル:一般公差(±0.1以上)、精密公差(±0.01〜0.05)、超精密公差(μmオーダー)
例えば、「マイクロメータを使用して、±0.02の公差を持つ、外径φ20〜50のシャフト部品群」というグループを作ります。このグループ内であれば、どの製品を測っても測定の難易度は同程度であると仮定します。
STEP 2:代表サンプルの選定
各グループから、MSAを実施する代表サンプルを1種類選定します。ここで重要なのは「一番簡単なもの」を選ばないことです。
- 測定が難しいものを選ぶ:形状が複雑で持ちにくい、肉薄で変形しやすい、測定面が狭いなど、測定誤差が出やすそうなものを選びます。「一番難しいものが合格なら、他の簡単なものは当然大丈夫」という論理(ワーストケース保証)を組み立てるためです。
- 測定範囲をカバーするものを選ぶ:可能であれば、規格の上限に近いもの、下限に近いもの、中央値のものを含めると理想的です。直線性(サイズによる誤差の違い)を確認できるからです。
STEP 3:データの収集(ブラインド測定)
選定したサンプルを、普段その測定を行っている作業者(2〜3名)に測定してもらいます。ここでの注意点は「ブラインド測定」を徹底することです。
- 測定者には、自分が何回目の測定か、他の人がどんな値を出したかを知らせてはいけません。前回の値を覚えていると、無意識に同じ値を書こうとする心理(バイアス)が働き、正しいバラつきが検出できなくなるからです。
- サンプルが複数ある場合は、測定する順番をランダムに変えます。毎回「1番、2番、3番…」の順で渡すと、測定のリズムで値を覚えてしまう可能性があります。
STEP 4:解析と判定(%GRRの算出)
集めたデータから「%GRR(ゲージR&R率)」を算出します。これは、測定システムのばらつきが、公差(または工程変動)に対してどの程度の割合を占めているかを示す指標です。
【判定基準(AIAGマニュアル準拠)】
- %GRR < 10%:合格。測定システムは非常に優秀です。安心して使用できます。
- 10% ≦ %GRR ≦ 30%:条件付き合格。重要保安部品でなければ許容されることが多いですが、改善活動を進めることが望ましいレベルです。コストとリスクのバランスを見て判断します。
- %GRR > 30%:不合格。測定システムに重大な問題があります。この測定結果で合否判定をしてはいけません。直ちに測定器の修理、治具の改善、作業者の再教育などの対策が必要です。
MSA結果が悪かった時の改善アプローチ
いざMSAをやってみて、「不合格(30%以上)」が出た場合、どうすればよいでしょうか。ここからが品質改善の本番です。原因別にアプローチを変える必要があります。
ケースA:「繰返し性(EV)」が悪い場合
これは「同じ人が測っても値がバラバラになる」という状態です。原因は「人」ではなく、「モノ(測定器・環境)」にある可能性が高いです。
- 測定器のメンテナンス:スライド部分のガタつき、測定面の摩耗、汚れがないか確認します。デジタルノギスの場合、電池残量低下で値が飛ぶこともあります。
- 治具の改善:部品を置く台が不安定ではありませんか?誰が置いてもピタッと同じ位置に決まるガイドやストッパーを設けるだけで、数値は劇的に安定します。
- 部品の剛性不足:薄肉リングやゴム製品のように、測定圧(測る力)で変形してしまう部品ではありませんか?測定圧を一定にする定圧装置付きの測定器や、非接触測定への切り替えを検討します。
ケースB:「再現性(AV)」が悪い場合
これは「人によって値が違う」という状態です。原因は「測定の標準化不足」や「スキル差」にあります。
- 測定手順の標準化:「どこを当てるか」「どのくらいの力で測るか」「目線をどこにするか」まで詳細に決めた標準作業書を作成します。写真や動画を使うのが効果的です。
- コツの言語化:ベテラン作業者は無意識に「測りやすい持ち方」をしています。ベテランの測定動作を動画で撮影し、若手と比較して「測定値が安定するコツ」を洗い出し、教育資料に反映させます。
- 読み取り誤差の排除:アナログ式の測定器(バーニヤ目盛りを読むタイプ)は、視力や見る角度によって誤差が出やすいため、デジタル表示式に変更するだけで、再現性が大幅に改善することもあります。
多品種少量におけるMSA運用のコツ
1. 公差に基づいた判定を行う(P/T比)
通常の量産MSAでは、「工程変動(実際の製品のバラつき)」を分母にして%GRRを計算するのが一般的です。しかし、多品種少量生産ではサンプル数が少なく、工程変動を正しく見積もることが困難です。
そのため、「公差(規格幅)」を分母にして%GRRを計算する(P/T比と呼びます)のが現実的です。「公差に対して測定誤差が十分に小さいか」を確認できれば、合否判定のリスク管理としては十分機能するからです。計算式では、分母を「公差の幅(上限値−下限値)」に置き換えるだけです。
2. 「傾向」を見ることを重視する
一度きりのMSAで完璧な数値を出すことにこだわらず、定期的に実施して「傾向」を見ることが重要です。「半年前より再現性が悪化しているな、測定器のガタが来ているかもしれない」「新人Cさんが入ってからバラつきが増えたな、教育が必要かもしれない」といった気付きを得ることが、MSAの本来の価値です。
3. 教育ツールとして活用する
MSAの結果をグラフ化して作業者に見せることは、非常に高い教育効果があります。「自分の測定値は、ベテランのAさんに比べてバラつきが大きい」「自分はいつも少し大きめに測る癖がある(バイアス)」といった客観的なデータを見せることで、作業者の測定に対する意識が変わり、自律的なスキルアップを促せます。
まとめ
多品種少量生産におけるMSAは、教科書通りにやろうとすると挫折します。しかし、「製品ごと」ではなく「測定プロセスごと」に管理対象を切り替え、「ダミー部品」や「公差基準」を活用することで、現実的かつ効果的な運用が可能になります。
MSAは単なる「監査対応のための書類作成」ではありません。現場の測定に対する信頼度を数値化し、「見えない誤差」を見える化する強力な武器です。
まずは、現場で最もトラブルが多い、あるいは測定が難しいと感じている工程を一つ選び、簡易的なMSAから始めてみてはいかがでしょうか。そこから得られる気付きは、きっと現場の品質意識を大きく変えるきっかけになるはずです。


