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製造業の品質保証に欠かせないRun@Rateとは?目的と実施方法を解説

製造業の現場では、新規ラインの立ち上げや工程変更の際に、「Run@Rate(ラン・アット・レート)」という用語がよく使われます。これは単なる稼働テストではなく、製造ラインが量産に耐えうる能力を有しているかを検証するための重要な工程です。

Run@Rateとは、ある決められた時間(たとえば8時間)ラインを連続稼働させ、その中でどれだけの数量を安定的に生産できるかを測定・記録するものです。

この結果は、工程能力の客観的な証拠となり、社内外に「このラインは量産可能である」と示す材料になります。

 

 

Run@Rate とは何か

Run@Rateは、製造ラインや設備が量産時に必要とされるスピード・品質・安定性を実際の生産条件下で再現し、生産能力の妥当性を検証する工程です。

「Run(運転)」と「Rate(目標生産速度)」の2つの要素で構成されます。

たとえば「500台/8時間」といった目標に対し、設備が実際にその性能を達成できるかを見極める重要な評価基準です。

 

Run@Rateの目的

Run@Rateの主な目的は次の3点に集約されます。

1. 生産能力の検証

Run@Rateは、製品を計画通りの数量で安定して生産できるかどうかを、実際の生産条件下で確認することを目的としています。

設備や作業者、サイクルタイム、不良率などを含めて検証することで、理論値ではなく実力に基づいた生産能力を見極め、納期遅延や品質トラブルの未然防止につなげます。

 

2. 量産準備の確認

Run@Rateでは、生産能力の確認だけでなく、量産時と同等の条件で生産を開始する準備が整っているかも評価対象となります。

作業手順の標準化、人員の教育状況、治工具の準備、材料供給の体制など、量産移行時に必要な各要素が現場で問題なく機能するかを実地で確認します。

 

3. 顧客または社内品質部門への証明

この審査は、サプライヤが量産を安定して継続できる体制を有していることを、顧客や社内の品質部門に対して客観的に証明する役割も果たします。

特に自動車業界では、PPAPやIATF 16949といった品質管理基準の一環として、Run@Rateの結果が重要な判断材料となり、承認や取引継続の可否にも関わります。

 

Run@Rate の重要性

Run@Rateは、量産体制の整備状況や工程能力の信頼性を裏付けるものであり、顧客監査・社内品質審査・投資判断などにおいて重要な評価指標です。

また、ボトルネックや工程異常を早期に検出する手段としても機能します。

 

なぜ「Run@Rate」と表記されるのか?

「Run@Rate」という表記は、英語表現 "Run at Rate" の略記です。

Run = 稼働(連続運転)

Rate = 生産レート(単位時間あたりの生産数量)

「@(アットマーク)」は英語圏で「at」を表す略記であり、例えば「50 pcs @ 10 min」は「10分で50個」を意味します。このように、Run@Rateという表記は技術英語として広く定着しており、自動車業界の品質マニュアルや監査チェックリストにも標準的に使われています。

また、日本国内でも外資系企業やグローバルサプライヤとのやり取りの中で、正式な書類表現としてRun@Rateが採用されています。

 

Run@Rate審査の基本的な流れ

1.審査要求

通常はPPAP(Production Part Approval Process)申請の一環として、量産前に顧客が仕入先に要求します。

顧客が部品承認前に「この部品は、量産要求に見合った供給能力があるか?」を確認するために行います。

例:自動車OEMが樹脂部品メーカーに対し、「1日あたり2,000個生産可能か」を確認するためにRun@Rateを要求。

 

2.事前準備

顧客の要求仕様に沿って、生産ライン、作業員、材料、設備などを量産と同じ条件で整備します。この時に製造指示書、QC工程表、検査仕様書なども整備します。

注意点として、試作設備での実施はNGで、必ず量産設備で行います。

代替材料や仮治具の使用も基本的には不可で、顧客承認されたもののみで準備します。

 

3.Run@Rate実施

実際に連続生産(2~8時間程度)を行い、良品率・稼働率・工程バランスなどをチェックします。顧客担当者が立ち会うケースと、仕入先がデータ提出だけを行うケースがあります。

チェックされる項目としては以下のようなものがあります。

・生産数:2,000個/8時間
・不良率:0.5%以下
・設備稼働率:85%以上
・作業者配置:標準人数(3名)
・工程能力:Cpk 1.67以上

 

4.レポート提出

作業日報・検査成績・稼働ログなど生産記録をまとめ、フォーマットに従って報告書を作成します。顧客が内部品質部門や調達部門でレビューします。

 

5.合格・不合格の判断と是正処置

合格 → PPAP承認プロセスが継続される

不合格 → 再実施または工程改善が求められる

 

Run@Rate審査時の注意点(顧客側・仕入先側)

顧客側の注意点

・量産時と異なる条件でのRun@Rate(仮設備、代替品)を誤って承認しないこと

・成果物だけでなく、「工程能力」「再現性」もチェックすること

・生産能力だけでなく、在庫対応力や出荷能力も確認すべき

 

仕入先側の注意点

・実力以上の数字で報告しない(後で破綻)

・工程異常は正直に報告し、是正計画も同時提出する

・人に依存する工程は、人員交代でも再現可能なよう標準化しておく

 

まとめ

Run@Rate審査は、単なる形式的な手続きではなく、顧客との信頼関係を築くための重要な工程です。生産能力だけでなく、品質を維持する力や安定した供給体制まで含めた「生産能力」「品質能力」「安定供給能力」の3つを確実に備えた上で臨むことが求められます。

また、Run@Rate審査の目的は、顧客に対して「このサプライヤは量産を安定的に開始できる」と安心してもらうためであり、準備状況の妥当性を客観的に示す役割を果たします。

顧客にとっては、品質と納期が確実に守られるという保証を得られるため、トラブルのリスクを減らす上でも極めて重要です。一方、仕入先にとっては、信頼の構築や長期的な取引の入り口となるだけでなく、自社の生産体制を見直す貴重なきっかけにもなります。