
産業用ロボットが針の穴を通すような精密な動きができるのも、自動ドアが人にぶつかる直前でスッと止まるのも、すべて「エンコーダ」という小さなセンサのおかげです。
エンコーダとは、一言でいえば「機械の現在地やスピードを測るメーター」です。
人間で例えるなら、手足(モータ)が今どう動いているかを確認するための「目」の役割を果たします。この「目」がなければ、どんなに高性能な機械も目隠しをして走っているのと同じで、正しい制御はできません。
本記事では、初学者の方に向けて「エンコーダとは何か?」という基礎から、光学式・磁気式といった種類の違い、そして現場での選び方までを分かりやすく徹底解説します。
- 1. エンコーダとは:サーボ機構における役割
- 2. 検出原理による分類:光学式・磁気式・レゾルバ
- 3. 出力形式による分類:インクリメンタルとアブソリュート
- 4. エンコーダの性能指標と計算:分解能と精度
- 5. 進化する通信技術:シリアル通信エンコーダ
- 6. A/B相信号の「4逓倍(ていばい)」処理とは
- 7. 用途別:最適なエンコーダの選び方
- 8. まとめ
1. エンコーダとは:サーボ機構における役割

エンコーダ(Encoder)という言葉には「暗号化する」という意味がありますが、機械の世界では回転や移動の量を、コンピュータが理解できる電気信号に変換するセンサを指します。
車に例えると、タイヤがどれくらい回ったか(距離)や、今時速何キロで走っているか(速度)を測るスピードメーターのような存在です。
直線を測る「リニアエンコーダ」と、回転を測る「ロータリーエンコーダ」がありますが、工場などで使われるモータ(サーボモータ)の背中には、必ずと言っていいほどこのロータリーエンコーダが取り付けられています。
フィードバック制御(クローズド・ループ制御)の要
モータを正確に動かすための仕組みを「サーボ機構」と呼びます。
例えば「右に90度回れ」とモータに命令したとします。しかし、モータに「目」がなければ、本当に90度回ったのか、障害物があって80度で止まっているのか分かりません。
そこで、エンコーダが「今、80度まで回りました」「無事に90度に着きました」と、常にコントローラへ結果を報告(フィードバック)します。
この「命令→結果の確認→ズレの修正」というループ(クローズド・ループ制御)によって、機械は寸分の狂いもなく動くことができるのです。
エンコーダが測っているのは主に以下の3つです。
- 位置情報:「今、何度(°)の場所にいるか」(ピタリと指定位置で止まるため)
- 速度情報:「今、毎分何回転で回っているか」(一定の速度でスムーズに動くため)
- 磁極位置情報:「モータの中の磁石がどっちを向いているか」(モータの力を最大限に引き出すため)
2. 検出原理による分類:光学式・磁気式・レゾルバ

エンコーダが「どうやって回転の量やスピードを読み取っているか」という物理的な仕組みには、大きく分けて3つの種類があります。
使う環境(綺麗か、汚れているか、振動が強いか)に合わせて、最適な方式を選ぶことが設計の第一歩です。
① 光学式エンコーダ(Optical Encoder)
現在の産業用モータで最もよく使われている、いわば「優等生」です。
透明な円板(コードホイール)に、非常に細かな黒い線(スリット)が放射状にたくさん描かれています。
この円板を挟むように小さなライト(LED)と光センサーを置き、円板が回って「光が通った」「光が遮られた」という明滅の回数を数えることで、どれだけ回ったかを知る仕組みです。
メリット
- 超高精度:半導体を作るような微細加工技術を使っているため、1回転を何百万分割もできるほど精度が抜群に高いです。
- 磁力の影響を受けない:光を使っているため、周りに強い磁石があっても誤作動しません。
デメリット
- 汚れに弱い:カメラのレンズが汚れるとぼやけるように、内部にホコリや油が入ると光が読めなくなり故障します。
- 衝撃に注意:円板がガラス製の場合、強い衝撃で割れてしまうことがあります(最近は割れない樹脂製や金属製も増えています)。
② 磁気式エンコーダ(Magnetic Encoder)
N極とS極が細かく交互に並んだ円板(磁気ドラム)と、磁力を感じるセンサーを組み合わせた方式です。
円板が回ることで変化する磁界の波を読み取ります。自転車のスピードメーター(車輪のマグネットを読み取る仕組み)を極めて高度にしたようなイメージです。
メリット
- 汚れに強い:磁力は油や水、ホコリを突き抜けるため、悪環境でも問題なく動きます。
- 壊れにくい:構造がシンプルでガラスを使っていないため、振動や衝撃に強いのが特徴です。
デメリット
- 精度は光学式に一歩譲る:以前は精度があまり高くありませんでした。しかし近年は技術が進歩し、光学式に迫る精度のものも登場しています。
- 磁力ノイズに注意:モータの強力なブレーキや、大電流が流れるケーブルの近くなど、外部の強い磁力の影響を受けてしまうことがあります。
③ レゾルバ(Resolver)
構造的には「モータのミニチュア版」のような、非常にタフなアナログ式センサです。
光も磁石も使わず、銅線を巻いたコイルと鉄の塊だけでできています。回転側と固定側のコイルの間で発生する電圧の変化を利用して角度を測ります。
メリット
- 最強の耐久性:電子部品やガラスが一切入っていないため、灼熱のオーブンの中や極寒の環境、激しい振動など、他のセンサが壊れるような過酷な環境でも耐え抜きます。長寿命です。
デメリット
- 翻訳機が必要:出てくる信号がアナログの波なので、そのままではコンピュータが理解できません。「デジタルに翻訳する機械(R/Dコンバータ)」が別途必要になります。
- 精度に限界がある:コイルの巻き方や鉄の加工精度で決まるため、光学式のような超高精度は狙えません。
3. 出力形式による分類:インクリメンタルとアブソリュート

コントローラへの「信号の送り方」には、決定的な違いを持つ2つの方式があります。両者の違いは「電源を切った時に記憶が残るか」という点に集約されます。
① インクリメンタル方式(Incremental)
「変化分(増分)」だけを出力する方式です。 回転している間、「A相」と「B相」というパルス信号を出力し続けます。コントローラ側はこのパルス数をカウントして位置を知ります。
特徴
- A相とB相の位相ズレ(90°)を利用して、回転方向(CW/CCW)を判別する。
- 1回転に1回だけ出力される「Z相(原点信号)」を持つ。
最大の弱点
- 電源を切ると位置を見失う。
- 再起動時には必ず「原点復帰動作(ドグに当てるなど)」を行い、ゼロ点を確定させる必要がある。
- ノイズでパルスが1つでも飛ぶと、その後ずっと位置がズレ続ける。
② アブソリュート方式(Absolute)
「絶対位置」を出力する方式です。 円板上に、角度ごとのユニークなアドレス(番地)が刻まれており、電源を入れた瞬間に「私は今ここにいます」と座標データを送信できます。
特徴
- 原点復帰が不要。 電源投入後すぐに作業を開始できる(瞬時立ち上げ)。
- 非常停止などで電源が落ちても、再開時に位置が保証される。
多回転データ(マルチターン)
※ロボットなどでは「360°を超えて何回転したか」も重要です。これを管理するために、以下の方式があります。
- バッテリバックアップ方式:電源OFF中も電池でカウンタ回路だけ動かし続ける。電池交換の手間がある。
- バッテリレス方式:歯車機構やウィーガンドワイヤ(磁気発電素子)を使い、電源なしで回転数を機械的・磁気的に記録する。メンテナンスフリーで近年人気。
4. エンコーダの性能指標と計算:分解能と精度

カタログスペックを読み解くために、重要な数値とその計算方法を解説します。
分解能(Resolution):パルスとビット
「1回転をどれだけ細かく分割できるか」を示す指標です。 インクリメンタルでは「P/R(パルス/回転)」、アブソリュートでは「bit(ビット)」で表されます。
【計算式】ビットからパルスへの換算 アブソリュートエンコーダの分解能が ビットの場合、1回転あたりの分割数は
になります。
事例: * 17bitエンコーダ: 分割 * 23bitエンコーダ:
分割
近年のサーボモータは20bit超えが当たり前になっています。23bit(約838万分割)という数字は、直径1mの円周を0.0003mm(0.3μm)刻みで検知できるレベルであり、人間の感覚を遥かに超えています。
機械的位置決め精度の計算
では、このエンコーダを使ってボールねじを駆動した場合、最小移動単位(指令単位)はどうなるでしょうか。
条件: * ボールねじリード(ピッチ): * 減速機:なし(直結
) * エンコーダ分解能:
計算: 1パルスあたりの移動量 は、リードを分解能で割った値です。
つまり、理論上はナノメートルオーダーの制御が可能です。ただし、実際には機械の摩擦や剛性、熱膨張が支配的になるため、エンコーダの分解能=機械精度とはなりません。 一般的に、「求めたい機械精度の10倍以上のエンコーダ分解能」を選定するのがセオリーです。
最大応答周波数と回転数制限
エンコーダには電気的な応答限界があります。パルスが速すぎると読み取り回路が追いつけなくなります。
【計算式】許容回転数の計算 最大応答周波数 ] と分解能
] から、許容最大回転数
] を求めます。
事例: 分解能 のインクリメンタルエンコーダで、最大応答周波数が
の場合。
これ以上の速度で回すと、「パルス飛び」や「アラーム停止」が発生します。高分解能なエンコーダほど周波数が高くなるため、高速回転させる場合はシリアル通信タイプを選定する必要があります。
5. 進化する通信技術:シリアル通信エンコーダ

昔ながらのインクリメンタルエンコーダは、A相・B相という単純なON/OFF信号を送っていましたが、数百万パルスもの高分解能データを送るには、もはや物理的なスイッチング速度が追いつきません。 そこで登場したのが「シリアル通信方式」です。
デジタル通信への移行
位置情報をエンコーダ内部のマイコンで計算し、その結果を「デジタルデータ」としてパケット通信でコントローラに送ります。 USBやイーサネットと同じような概念です。
メリット
- 配線削減:何十ビットものデータでも、信号線は2対(4本)程度で済む(省配線)。
- 高信頼性:CRC(巡回冗長検査)などのエラーチェック機能があり、ノイズによるデータ化けを検知できる。
- 付加情報:温度情報やエンコーダ自体の異常アラームなど、位置以外のステータスも送信できる。
代表的な通信プロトコル
シリアルエンコーダの世界は、各メーカの独自規格とオープン規格が乱立しています。
オープン規格
- BiSS-C / SSI:欧州を中心に普及。汎用性が高い。
- EnDat:ハイデンハイン社が提唱。工作機械などの超精密分野で強い。
メーカ独自規格(日本勢)
- ニコンAフォーマット:多くの国産サーボアンプが対応。
- パナソニック形式:パナソニック製サーボ専用。
- 多摩川精機方式(TS):「スマートアブソ」などが有名。ロボット業界のデファクトスタンダードの一つ。
サーボアンプを選定する際は、「どこのメーカのエンコーダプロトコルに対応しているか」を確認することが必須です。ここが合わないと接続できません。
6. A/B相信号の「4逓倍(ていばい)」処理とは

インクリメンタルエンコーダの仕様書でよく見る「4逓倍」という言葉。これを知らないと、パルス数計算で4倍のズレが生じます。
位相差を利用した分解能向上
A相とB相は、電気的に (1/4周期)ズレています。 コントローラ側では、単にA相の立ち上がりだけをカウントするのではなく、以下の4つのタイミング(エッジ)をすべてカウントします。
- A相の立ち上がり(↑)
- B相の立ち上がり(↑)
- A相の立ち下がり(↓)
- B相の立ち下がり(↓)
これにより、物理的なスリット数の4倍の分解能を得ることができます。 例えば、カタログに「2500 P/R」と書いてあるエンコーダを4逓倍で使うと、制御上の分解能は「10,000 pulse/rev」として扱われます。
【注意点】 サーボアンプの設定パラメータで、「エンコーダパルス数」を入力する際、それが「物理スリット数」なのか「4逓倍後のパルス数」なのか、マニュアルをよく読んで確認してください。ここを間違えると、移動量が4倍になったり1/4になったりします。
7. 用途別:最適なエンコーダの選び方

最後に、具体的なアプリケーションに対してどのエンコーダを選ぶべきか、選定の指針を示します。
① 工作機械・半導体製造装置
- 推奨:高分解能・光学式・アブソリュート
- 理由:ナノレベルの加工精度が必要なため、20bit以上の超高分解能が必須。電源断後の復帰も早くなければならない。
② 搬送用AGV(無人搬送車)の車輪
- 推奨:磁気式・インクリメンタル
- 理由:タイヤが路面の段差を拾うため、振動に強い磁気式が有利。また、車輪は無限に回転し続けるためアブソリュートである必要性が薄く、コスト重視でインクリメンタルが選ばれることが多い。
③ 溶接ロボット・プレス機周辺
- 推奨:レゾルバ または 堅牢型磁気式アブソリュート
- 理由:溶接電流による強烈なノイズ、スパッタ、油煙、プレス時の衝撃など、光学式には過酷すぎる環境。壊れないことが最優先される。
④ 食品機械・洗浄工程
- 推奨:防塵防水(IP67以上)対応の磁気式
- 理由:水洗いが頻繁に行われるため、密閉性の高い構造が必要。ガラスを使わない磁気式であれば、万が一破損しても食品へのガラス片混入リスクがない(コンタミネーション対策)。
8. まとめ
エンコーダは、単なる「回転計」から、高度な通信機能を持った「インテリジェントセンサ」へと進化しました。 分解能の向上は、そのまま製品の加工品質の向上に直結し、バッテリレス技術の普及は、メンテナンスコストの削減に貢献しています。
重要なポイントのおさらい
- 種類の選定:精度重視なら光学式、環境重視なら磁気式かレゾルバ。
- 出力の選定:原点復帰の手間を省くならアブソリュート。
- 分解能の計算:目標精度の10倍以上を確保する。
- 通信の確認:アンプとのプロトコル整合性を確認する。
「たかがセンサ」と侮ることなかれ。あなたの設計した機械が、意図した通りに正確に、そして優雅に動くかどうかは、この小さな円盤の性能にかかっているのです。