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エンコーダーとは|仕組みと分解能の計算式を解説

産業用ロボットが針の穴を通すような精度で動けるのも、工作機械がミクロン単位で金属を削れるのも、すべては「自分の現在地」を正確に把握しているからです。

この「現在地」を教えるセンサこそが、「エンコーダ(Encoder)」です。

メカトロニクスにおいて、モータは「筋肉」であり、コンピュータ(コントローラ)は「頭脳」です。そしてエンコーダは、筋肉の動きを監視し頭脳に伝える「視覚神経」の役割を果たします。この神経からのフィードバック信号が途絶えたり、精度が悪かったりすれば、どんなに高性能なCPUや強力なモータがあっても、まともな制御は不可能です。

本記事では、サーボ機構の要石であるエンコーダについて、光学式・磁気式・レゾルバといった「検出方式の種類」から、インクリメンタル・アブソリュートといった「出力方式の違い」、さらには選定に必要な分解能や周波数の計算まで徹底解説します。

1. エンコーダとは:サーボ機構における役割

エンコーダとは、機械的な「位置(角度)」や「速度」の変化を、電気的な「信号(パルスやデータ)」に変換するセンサの総称です。 直動(リニア)動作を検出するものを「リニアエンコーダ(リニアスケール)」、回転動作を検出するものを「ロータリーエンコーダ」と呼びますが、サーボモータに内蔵されているのは主に後者です。

フィードバック制御の要

サーボ(Servo)の語源は「Slave(奴隷)」と言われますが、主人の命令(指令値)通りに忠実に動くためには、自分が今どう動いているかを確認する必要があります。これを「クローズド・ループ制御(閉ループ制御)」と呼びます。

エンコーダは以下の情報をコントローラ(サーボアンプ)にフィードバックします。

  1. 位置情報:「今、何度(°)の場所にいるか」 → 位置決め制御に使用
  2. 速度情報:「今、毎分何回転(r/min)で回っているか」 → 速度制御に使用
  3. 磁極位置情報:「ロータの磁石がどの向きを向いているか」 → モータの電流制御(ベクトル制御)に使用

特にACサーボモータにおいては、3つ目の「磁極位置検出」が重要であり、これが分からないとモータを回すことすらできません。

 

2. 検出原理による分類:光学式・磁気式・レゾルバ

エンコーダが「どうやって回転を読み取っているか」という物理的な仕組みには、大きく分けて3つの種類があります。それぞれの特性を理解し、環境に合わせて選定することが重要です。

① 光学式エンコーダ(Optical Encoder)

現在の産業用サーボモータで最も主流な方式です。 「スリット(微細な穴)」が刻まれた回転円板(コードホイール)を挟んで、発光素子(LED)と受光素子(フォトダイオード)が配置されています。 円板が回転すると光が断続され、その明滅を電気信号に変換します。

  • メリット:
    • 超高分解能:半導体製造技術(リソグラフィ)を応用することで、数百万〜数千万パルス/回転という驚異的な精度を実現可能。
    • 磁気ノイズに強い:光を利用するため、外部磁界の影響を受けない。
  • デメリット:
    • 環境に弱い:油、水、ホコリが内部に侵入すると、レンズや円板が汚れて誤動作する。
    • 衝撃に弱い:ガラス製の円板を使用している場合、強い衝撃で割れるリスクがある(現在は金属や樹脂製も多い)。

② 磁気式エンコーダ(Magnetic Encoder)

磁気ドラム(多極着磁された磁石)と、磁気センサ(ホール素子やMR素子)を組み合わせた方式です。回転に伴う磁界の変化を読み取ります。

    • メリット:
      • 耐環境性が高い:油やホコリで汚れても磁力は透過するため、問題なく動作する。
      • 堅牢:シンプルな構造で振動・衝撃に強い。
    • デメリット:
      • 分解能が低い:以前は光学式に比べて精度が出なかったが、近年は補間技術の進化で光学式に迫る性能を持つものも登場している。
      • 磁気ノイズに弱い:モータのブレーキや大電流ケーブルからの漏れ磁束の影響を受ける可能性がある。

③ レゾルバ(Resolver)

構造的には「モータそのもの」に近い、アナログ式の回転角度センサです。 一次コイル(回転側)に交流電圧をかけ、二次コイル(固定側)から出てくる電圧の位相ズレや振幅変化から角度を検出します。

      • メリット:
        • 最強の耐環境性:電子回路やガラスディスクを含まず、銅線と鉄芯だけで構成されているため、超高温・極低温・激しい振動・放射線環境でも壊れない。
        • 長寿命:摩耗する部品がない(ブラシレスレゾルバの場合)。
      • デメリット:
        • 変換器が必要:出力がアナログ信号なので、デジタルに変換する「R/Dコンバータ」が必要。
        • 精度限界:巻線の機械的な精度で決まるため、光学式のような超高分解能化は難しい。

 

3. 出力形式による分類:インクリメンタルとアブソリュート

コントローラへの「信号の送り方」には、決定的な違いを持つ2つの方式があります。両者の違いは「電源を切った時に記憶が残るか」という点に集約されます。

① インクリメンタル方式(Incremental)

「変化分(増分)」だけを出力する方式です。 回転している間、「A相」と「B相」というパルス信号を出力し続けます。コントローラ側はこのパルス数をカウントして位置を知ります。

      • 特徴:
        • A相とB相の位相ズレ(90°)を利用して、回転方向(CW/CCW)を判別する。
        • 1回転に1回だけ出力される「Z相(原点信号)」を持つ。
      • 最大の弱点:
        • 電源を切ると位置を見失う。
        • 再起動時には必ず「原点復帰動作(ドグに当てるなど)」を行い、ゼロ点を確定させる必要がある。
        • ノイズでパルスが1つでも飛ぶと、その後ずっと位置がズレ続ける。

② アブソリュート方式(Absolute)

「絶対位置」を出力する方式です。 円板上に、角度ごとのユニークなアドレス(番地)が刻まれており、電源を入れた瞬間に「私は今ここにいます」と座標データを送信できます。

      • 特徴:
        • 原点復帰が不要。 電源投入後すぐに作業を開始できる(瞬時立ち上げ)。
        • 非常停止などで電源が落ちても、再開時に位置が保証される。
      • 多回転データ(マルチターン):
        • ロボットなどでは「360°を超えて何回転したか」も重要です。これを管理するために、以下の方式があります。
          • バッテリバックアップ方式:電源OFF中も電池でカウンタ回路だけ動かし続ける。電池交換の手間がある。
          • バッテリレス方式:歯車機構やウィーガンドワイヤ(磁気発電素子)を使い、電源なしで回転数を機械的・磁気的に記録する。メンテナンスフリーで近年人気。

 

4. エンコーダの性能指標と計算:分解能と精度

カタログスペックを読み解くために、重要な数値とその計算方法を解説します。

分解能(Resolution):パルスとビット

「1回転をどれだけ細かく分割できるか」を示す指標です。 インクリメンタルでは「P/R(パルス/回転)」、アブソリュートでは「bit(ビット)」で表されます。

【計算式】ビットからパルスへの換算 アブソリュートエンコーダの分解能が  n ビットの場合、1回転あたりの分割数は  2^n になります。

 \text{分割数} = 2^n

事例: * 17bitエンコーダ:  2^{17} = 131,072 分割 * 23bitエンコーダ:  2^{23} = 8,388,608 分割

近年のサーボモータは20bit超えが当たり前になっています。23bit(約838万分割)という数字は、直径1mの円周を0.0003mm(0.3μm)刻みで検知できるレベルであり、人間の感覚を遥かに超えています。

機械的位置決め精度の計算

では、このエンコーダを使ってボールねじを駆動した場合、最小移動単位(指令単位)はどうなるでしょうか。

条件: * ボールねじリード(ピッチ):  L = 10 \, mm * 減速機:なし(直結  1:1) * エンコーダ分解能:  17 \, bit \, (131,072 \, pulse/rev)

計算: 1パルスあたりの移動量  \Delta x は、リードを分解能で割った値です。

 \Delta x = \dfrac{10 \, mm}{131,072} \approx 0.000076 \, mm = 76 \, nm

つまり、理論上はナノメートルオーダーの制御が可能です。ただし、実際には機械の摩擦や剛性、熱膨張が支配的になるため、エンコーダの分解能=機械精度とはなりません。 一般的に、「求めたい機械精度の10倍以上のエンコーダ分解能」を選定するのがセオリーです。

最大応答周波数と回転数制限

エンコーダには電気的な応答限界があります。パルスが速すぎると読み取り回路が追いつけなくなります。

【計算式】許容回転数の計算 最大応答周波数  f_{max} \, [Hz] と分解能  N \, [P/R] から、許容最大回転数  N_{max} \, [r/min] を求めます。

 N_{max} = \dfrac{f_{max} \times 60}{N}

事例: 分解能  10,000 \, P/R のインクリメンタルエンコーダで、最大応答周波数が  200 \, kHz \, (200,000 \, Hz) の場合。

 N_{max} = \dfrac{200,000 \times 60}{10,000} = 1,200 \, r/min

これ以上の速度で回すと、「パルス飛び」や「アラーム停止」が発生します。高分解能なエンコーダほど周波数が高くなるため、高速回転させる場合はシリアル通信タイプを選定する必要があります。

 

5. 進化する通信技術:シリアル通信エンコーダ

昔ながらのインクリメンタルエンコーダは、A相・B相という単純なON/OFF信号を送っていましたが、数百万パルスもの高分解能データを送るには、もはや物理的なスイッチング速度が追いつきません。 そこで登場したのが「シリアル通信方式」です。

デジタル通信への移行

位置情報をエンコーダ内部のマイコンで計算し、その結果を「デジタルデータ」としてパケット通信でコントローラに送ります。 USBやイーサネットと同じような概念です。

      • メリット:
        • 配線削減:何十ビットものデータでも、信号線は2対(4本)程度で済む(省配線)。
        • 高信頼性:CRC(巡回冗長検査)などのエラーチェック機能があり、ノイズによるデータ化けを検知できる。
        • 付加情報:温度情報やエンコーダ自体の異常アラームなど、位置以外のステータスも送信できる。

代表的な通信プロトコル

シリアルエンコーダの世界は、各メーカの独自規格とオープン規格が乱立しています。

      • オープン規格:
        • BiSS-C / SSI:欧州を中心に普及。汎用性が高い。
        • EnDat:ハイデンハイン社が提唱。工作機械などの超精密分野で強い。
      • メーカ独自規格(日本勢):
        • ニコンAフォーマット:多くの国産サーボアンプが対応。
        • パナソニック形式:パナソニック製サーボ専用。
        • 多摩川精機方式(TS):「スマートアブソ」などが有名。ロボット業界のデファクトスタンダードの一つ。

サーボアンプを選定する際は、「どこのメーカのエンコーダプロトコルに対応しているか」を確認することが必須です。ここが合わないと接続できません。

 

6. A/B相信号の「4逓倍(ていばい)」処理とは

インクリメンタルエンコーダの仕様書でよく見る「4逓倍」という言葉。これを知らないと、パルス数計算で4倍のズレが生じます。

位相差を利用した分解能向上

A相とB相は、電気的に  90^\circ (1/4周期)ズレています。 コントローラ側では、単にA相の立ち上がりだけをカウントするのではなく、以下の4つのタイミング(エッジ)をすべてカウントします。

      1. A相の立ち上がり(↑)
      2. B相の立ち上がり(↑)
      3. A相の立ち下がり(↓)
      4. B相の立ち下がり(↓)

これにより、物理的なスリット数の4倍の分解能を得ることができます。 例えば、カタログに「2500 P/R」と書いてあるエンコーダを4逓倍で使うと、制御上の分解能は「10,000 pulse/rev」として扱われます。

【注意点】 サーボアンプの設定パラメータで、「エンコーダパルス数」を入力する際、それが「物理スリット数」なのか「4逓倍後のパルス数」なのか、マニュアルをよく読んで確認してください。ここを間違えると、移動量が4倍になったり1/4になったりします。

 

7. 用途別:最適なエンコーダの選び方

最後に、具体的なアプリケーションに対してどのエンコーダを選ぶべきか、選定の指針を示します。

① 工作機械・半導体製造装置

      • 推奨:高分解能・光学式・アブソリュート
      • 理由:ナノレベルの加工精度が必要なため、20bit以上の超高分解能が必須。電源断後の復帰も早くなければならない。

② 搬送用AGV(無人搬送車)の車輪

      • 推奨:磁気式・インクリメンタル
      • 理由:タイヤが路面の段差を拾うため、振動に強い磁気式が有利。また、車輪は無限に回転し続けるためアブソリュートである必要性が薄く、コスト重視でインクリメンタルが選ばれることが多い。

③ 溶接ロボット・プレス機周辺

      • 推奨:レゾルバ または 堅牢型磁気式アブソリュート
      • 理由:溶接電流による強烈なノイズ、スパッタ、油煙、プレス時の衝撃など、光学式には過酷すぎる環境。壊れないことが最優先される。

④ 食品機械・洗浄工程

      • 推奨:防塵防水(IP67以上)対応の磁気式
      • 理由:水洗いが頻繁に行われるため、密閉性の高い構造が必要。ガラスを使わない磁気式であれば、万が一破損しても食品へのガラス片混入リスクがない(コンタミネーション対策)。

 

8. まとめ

エンコーダは、単なる「回転計」から、高度な通信機能を持った「インテリジェントセンサ」へと進化しました。 分解能の向上は、そのまま製品の加工品質の向上に直結し、バッテリレス技術の普及は、メンテナンスコストの削減に貢献しています。

重要なポイントのおさらい:

      1. 種類の選定:精度重視なら光学式、環境重視なら磁気式かレゾルバ。
      2. 出力の選定:原点復帰の手間を省くならアブソリュート。
      3. 分解能の計算:目標精度の10倍以上を確保する。
      4. 通信の確認:アンプとのプロトコル整合性を確認する。

「たかがセンサ」と侮ることなかれ。あなたの設計した機械が、意図した通りに正確に、そして優雅に動くかどうかは、この小さな円盤の性能にかかっているのです。